夕空晴れて秋風吹き

月影落ちて鈴虫鳴く

思へば遠し故郷の空

ああ、我が父母いかにおはす






暖かかった外気も徐々に冷たくなり吹く風が乾燥した肌に触れると、それはぴり、と引きつり痛くなる。なけなしのお金で買った体を温めたコーヒーももうすっかりからになって、することも、何も浮かばずただ人気のない寂れた公園のブランコを左右に揺らしていた。先程まで砂場で遊んでいた子供たちは、夕日に伸びる長い影の向こうへ帰ってしまった。きっと彼らの家には食事に、部屋に、家族、揃うことが容易くそれでいてまた困難なものがあるのだろう。嫉妬を起こすつもりは毛頭なかったけれども、羨ましくはあるもので、足元に落とした缶を八つ当たりに思い切り踏み潰した。空は真っ赤で、季節に見合う名も分からない花が夜に向けて萎れつつあるのを、急に悲しく思えて、思わずこの寒気の中噴水に浸かって、被っていた帽子の中に水を入れて花々に掛けた。道行く人たちが私を不審者でも見つけたように(と、いうより既に不審者だけれど)、奇異の目で視界に捉えると知らないふりをして通り過ぎていく。それでもまだ、足りないと思い水を汲もうと帽子を水に再び浸した時だ。緑の、柔い色の制服の袖が見えたかと思うと、あっという間に帽子は水の外から出ている、当然私の手もだ。あかぎれて腫れた手をみて、骸さんは渋い顔をしてみせた。


「どうしたらそんな馬鹿な考えが思い浮かぶんですか」

「‥花が、萎れてたから」

「日が暮れるからでしょう、君なら分かる筈ですよ」

「‥分かってる、けど、」


骸さんはさらに私のびしょ濡れた服に気づいたのか、着ていた制服の上着を私の肩に掛けてくれる。並中の制服に黒曜中の上着、とは風紀委員長の雲雀先輩が見ればどんな顔をするか。


「‥ひとりぼっちが寂しくて、花まで私を離れようとするから」

「今日は独りになりたいといったからですが」

「ああうん、そう、そう、私、独りになりたかったんだ、でも寂しくなるの、矛盾してる」

「‥そんな日は幾らでも有ります」


人間というのは特に面倒な生き物なのですから。
確信めいて骸さんは私に向かって言葉をぶつけると、冷えた手のひらを温めてくれた。骸さんの手も正直暖かくなくて、むしろ冷たかったけれど、あのまっすぐな目を見ていると自然と彼に手を委ね続けたくなる。私は、正直、彼の優しい言葉を待っていた。


「さて、帰りますか」

「え?私も、‥?」

「犬たちが寂しくしていますよ」

「‥‥骸さん、も、ですか」


私のその言葉を聞いて、一瞬躊躇う。が、すぐにまたあの穏やかで、したたかな笑みに変わった。


「君がいないと現実味に欠ける」



この焦燥を愛している

20100426

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