手放せない恋情





あの日、自分の手から離れたと思った。
何故あんなことを言われたのか分からなかった。あれから数年経った今でも、あんなことを言った彼でしか、本当のことは分からないのだろうと思う。
でも、私のことをどうでもいいと思って言ったことではない。自惚れかもしれないけれど、それだけは言える。
私は今日に至るまでこうして生き延びている。それが彼の願いならば、あの日、彼を追い掛けることすらさせなかったあの言葉の数々は、役目を果たしたということなのだろう。

追い掛けたかった。もう一度捕まえて、そばにいたかった。同じ時を過ごしたかった。

あの日のように、目の前の砂漠は風が砂を巻き上げ、視界を遮り…ああ、あの日、あなたがどんな顔であんなことを言ったのかあまり覚えていないのは、このせいもあったのかもしれない。
あの時、あなたの顔をしっかり見ていれば、今と何か変わっていたのだろうか。

頭を振り、考えても詮ないことを振り払う。
目的は何であれ、私はまたこの場に立っている。恐らく、あなたに一番近い場所に…

風が止んで視界が開けた。
一歩、また一歩、私が生きていることがあなたの願いなら、それが少しでも長く続くように力を込めて。
あなただけに捧げる、手放せないこの想いと共に、私は歩いていく。















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