置いて行かれる(転生要素も少しあるような現パロ)
桜や藤の季節を過ぎ、新緑溢れる植物園であったが、訪れる人間はまばらで、だがそのおかげで人目を気にすることもないなと、リヴァイは傍らのペトラの細い指に己の指を絡めた。
あ、と小さく声を上げ掛けるも、瞳を伏せ気味にはにかむペトラの髪が初夏の爽やかな風に揺れるのを見ながら、リヴァイはここ数ヶ月続いている仕事の疲れが失せていくのを感じていた。

「リヴァイさん、あの木、すごく大きいですね!」

彼女が指差した先には、おそらく杉の一種であろう、幹の太い木が高く高くそびえ立っていた。

その木を見た瞬間、リヴァイには不思議な既視感がわいた。
それは決して良い感じのものではなく、己の無力感を恐ろしい程自覚するような…

言葉無く立ちつくすリヴァイの手から、するり、とペトラの手がすり抜けていった。
声を掛ける間もなくペトラはその木に駆け寄り、ぐっと顔を上げる。
鼻が顔の一番上に行き、後頭部が背中にぐっと近付き、亜麻色の髪が流れる…その後ろ姿を見た途端、リヴァイの中に今まで感じたこともないような喪失感、空虚感が押し寄せ、彼の心を抉っていく。リヴァイはそれを振り払うかのように、彼女を背中から強く抱き締めていた。

「リ、リヴァイさん!?」

驚き戸惑う彼女の声にハッと我に返るも、リヴァイは彼女を放すことが出来なかった。木から離すように、己に強く引き寄せる。
しばらくそうしていたが、やがて、ペトラの息遣い、温もり、何よりも彼女の瞳に映る自分を見つけ、安堵感が彼を満たしていた。

ーああ、映っているー

映っているのは情けないくらい憔悴した顔をしたリヴァイなのだが、彼女が彼を見ている、何よりの証であった。『あの時』とは違う。

「…俺を、置いて行かないでくれ…」

こんな掠れた弱々しい声は自分でも聞いたことがないとは思ったが、『あの時』置いて行かれたのは実は自分だったのではないかと、リヴァイは頭の隅でぼんやりと考えていた。

不意に頭に浮かんだ『あの時』が何なのか分からないまま彼女を抱き締めるリヴァイの背中に、あやすように慰めるようにペトラの腕が回された。






木は『ジャイアントセコイア』のつもりで。
場所は熊本城の植物園がモデルです(笑)



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