まさか、とは思ったが、ペトラの後ろには誰も馬を走らせていない。ただ遠くに巨人の姿が見えるだけだ。
自分がしんがりになるとは…いや、これが壁外というものだ。とにかく巨人に追い付かれないよう、前に取り残されないようにしなければ。
前を走る者もまばらで、ややもすると見失いそうになる。もう少し前の荷馬車護衛班ならそれなりに固まっているのだろうが…。
不意に大きな不安に苛まれ、胸の底から震えた。前を見失ってもとにかく壁を、北を目指せばいいと分かっているのに周りの風景が滲んでいく…
「ペトラ! 馬をしっかり走らせろ!」
怒声にハッとすると、いつの間にか見覚えのある黒馬が、リヴァイが併走していた。
「兵長…!!」
「ガキみてえに泣きたいなら後からにしろ!」
「は、はい!」
…聞いたことはあった。兵士長であるリヴァイが最後尾まで戻り、結果、しんがりになることが多くなるということを。
それがこんなにも心強いとは…こんなにも安心できるとは…
手綱を握り直し、前を向くペトラの目に力強さが再び宿る。
それを横目で確認したリヴァイの口から安堵の息がもれたことに、ペトラはもちろん、リヴァイ自身も気付いてはいなかった。