ブシュッ! ザクッ!!
私が巨人の近くの塔にアンカーを打ちこんでその死角から斬り込み目潰しに成功すると、すかさずオルオが項を削いだ。
「さすがね、オルオ」
そばに寄ってきたオルオに、こういう時は素直に言葉が出る。
「フッ…惚れ直すなよ、ペトラ…」
「それはないから」
すぐ調子に乗るんだからと、辺りを見回せば、向こうから屋根伝いに兵長が軽やかに駆けてきた。2体を相手にした直後だというのに汗もかかず、息すら乱さず…ただ、少しだけ乱れた前髪と蒸発しつつある返り血が辛うじて巨人との戦いの痕跡を残していた。
「そろそろ…」
兵長が呟くと、視界の端で信煙弾が上がった。
「…帰還だ。馬のところまで戻れ」
「はい!」
走り出したオルオを追い掛けようとして、家々の屋根が視界に広がる。
そして、その下には絶命し煙を上げる巨人…馬がいなければ、まともに地上を歩くことさえ出来ない非力な私たち。
「…後で考えろ」
低い声が呆けていた私を弾いた。そうだ、ここは壁外、何が起こるか分からないというのに。
「は、はい!」
パッと敬礼し、急いで走り出した私の少し後ろを兵長が付いて来るのは知っていたけど、
「…後で考えろとテメェで言ったろうが…」
オルオに追い付いて、戦友の気楽さで肩を並べるように立体機動に移った私たちを見つめながら、自嘲気味に苦々しく兵長が呟いたことに、私が気付く筈もなかった。