『余計にひどくなる』
「まだ浸けとけ」
兵長がお湯で少し赤くなった私の手を桶に張った冷水にまた浸ける。
「浸けときますから、あの、手を放して下さい」
「俺がいいと言うまで浸けとくからこのままだ」
…何だかよくわからないけど、放してくれそうにないのは分かった。
「やけどをなめるなよ。冷やしきれないと水ぶくれになったり、痕が残る」
「分かってますけど、兵長が手を放さない理由は分かりません」
「俺がこうしたいだけだ」
真顔で告げられ、手は冷水でどんどん冷えていくのに頬は一気に熱くなった。そして今更ながら、顔が近いことにも気付いてしまった。
「へ、兵長も手が冷えきってますよ」
「お前に後で温めてもらう」
言うなり、耳たぶを甘く咬んできて…
ああ、もう、手以外が、やけどをしたように熱い…。
『寒い日の口実』
食器洗いをしてすっかり冷え切った両手を脇の下に挟んで暖めていると言うと、兵長は怪訝そうな顔をした後、私の前に手を差し出した。
「手ぇ出せ」
「? は、はい」
「両方だ」
言われた通りにすると、兵長の両手がまだ冷たい私の両手を包み込んだ。
「つ、冷たいですよ!」
「確かにな。チッ、なかなか暖まらねえ」
言うなり、私の両手を左手で握ったまま右手で首もとのスカーフを緩め…
「ここなら暖まるか」
あろうことか、私の両手は兵長の首筋を挟むように押し当てられた。
ドク、ドク、ドク…
これは兵長の脈なのか、私の鼓動なのか。
私のならうるさいくらい早いのを中から感じているから、これはきっと兵長の…
暖まり始めた指先がじんじんとする。
でも指先より頬がずっと熱くて、目の前の兵長をそっと見やれば、心なしか口角が上がっているようにも思えて。
「だいぶ暖まったな」
今度は兵長の頬に、顔を挟むように…さっきから言葉も出ない。
兵長は普段の表情とは真逆にどこもかしこも温かくて、このまま触れ続けたいなんて思ってしまう。
「お前の方が温かそうだ」
しばし惚けていた私が疑問の声をあげる前に、唇に温かいものが押し付けられた。
今まで触れたもので一番温かくて熱い唇が…