「巨人の臭え口の中でくたばりたくなけりゃ強くもなる。あいつらにやられる前にやるしかねえ。人類最強だなんだ、所詮そんなもんだ」
崇高な理想や目的のためではないとでも言いたいような、ただ生にしがみついているだけと言わんばかりの強さの理由。
「…壁外を知らない頃に聞いていたら、確かにちょっと失望したかもしれません。でも兵長は一人で複数の巨人を相手にしますよね。兵長だから出来るんでしょうけど、やっぱり守られているなぁって」
「一人のほうがやりやすい時もあるだけだ。ヘマすりゃあっという間に喰われちまうだろうな」
本当に、目の前のこの人を、誰が人類最強などと呼び始めたのだろうか。
こんな私でも守りたいと一瞬思ってしまったほど寂しげなこの人を。
そんなことはとても言えなくて、思わずギリッと小さく歯噛みしてしまった私の視界が急に暗くなった。
兵長の手が私の顔を覆っている…?
「そんな顔してたら、俺みたいになるぞ」
私の眉間に寄った皺を兵長の親指がほぐすように撫でる。
「…兵長みたいな顔になったら、箔がついていいかもしれません」
「やめとけ。ロクなことはねえ」
顔を覆っている兵長の手のせいで、兵長がどんな顔をしているかさっぱり分からないけれど、いつになく柔らかい雰囲気は感じ取れて、知らず小さく笑いがこぼれた。
「何もねえ時はそれでいい」
視界が明るくなった途端、兵長の顔がすぐ近くまで迫ってきていて…
「へいちょ…」
兵長の親指が私の下唇をなぞり、他の指は顎の下に添えられたことに思わず身震いしたら、ふっと苦笑を浮かべて兵長が少し離れた。
私、何を期待していたんだか…
恥ずかしくなって俯く私の頭を兵長がポンポンと優しく叩いて、頬に手では無い、少し濡れたものが一瞬触れた。
「また今度な」
ぼう然とする私を置いて、兵長がゆっくりと歩み去っていった。
今度って、いつですか。
何が今度なんですか。
絶対に聞きますからね。
終わったら絶対に。
壁外調査のための全体訓練、そのわずかな休憩で決意する。
必ず生きて帰ってくる。
あの人と一緒に。