チリン、チャリン、と軽やかな金属同士が柔らかく当たる音が聞こえる。

音はどうやら自分達が階段を昇る度・宮を抜ける度に聞こえる様だ。

その音が気になったのは頭に上りまくった血が段々下がって来てから。
場所的には天秤宮を抜けた頃。

「…何の音だ…?」
「敵はもう、いない筈です。彼等の冥衣でしょうか…?」

未だ周囲を警戒しながら元同胞達の身を改めるがそんな音がする様な装備品は無い。

それよりも、と改めてアイオリアは肩に担いでいたシュラの姿を漸くしっかりと見る。

女神の為に産まれ、女神の為に生きる決意をし、女神の為に修行をこなし、最後は女神に敵対し命を失ったシュラ。
さぞや不本意であっただろうと思ったが、冥王の走狗と成り下がって目の前に表れた時は本気で再び冥界に叩き返す勢いで闘いを挑んだ。

アイオリアは聖域の立て直しに忙殺される一方で一変した兄と己とシュラの立場に、昔を思い出す事が暫しあった事を思い出す。

そして、その思い出の中にはいつも必ずこの白い肌と黒髪の、キツい眼差しの少年が間近に居た事に漸く気が付く。

今、傍らに居るシュラは且て見た事も無い程、満身創痍で力なく肩に担がれ五感を剥奪された廃人同様の姿であった。
だがそんな姿もまた、リアの目を捉えて放さない。

先程の闘いの凄まじさを物語るかの様な、あちこち砕けた黒光りする冥衣。
から覗く、白過ぎて血管まで透けて見える程血の気を失った肌との美しいコントラスト。
破れた下履と流れる赤い血。
口元の滲んだ血の色。

全てから漂うこの色気は一体何事か!?

思わずリアは生唾を飲み込んで見入ってしまっていた。



「ハイそこ、こんな非常時に勃起しないで下さい。捻切りますよ?」
「!! お、俺は勃起などしていない!!」

ムウは肩に担ぐのも嫌なのか、サガの両足を掴み引き摺りながら(しかも顔を接地面にしながら)ぼんやりシュラを見ながら勃起するリアを駅構内のゲロを見る目付きで見ながら通り過ぎて行く。

「お前元気だな…。しかし女神の御前に出る前に何とかしろよソレ。」
「だから勃起など…って何だ?何か機械音がするな…。」
「皆まで云うな…。このカミュの尻付近が音源って辺りで大体の察しは付いている…。」

アイオリアがシュラとの想い出を思い出しながら歩いていた様に、ミロも親友のカミュとの想い出にでも浸っていたのであろう、相当複雑な表情をしていた。

カミュの生前の性癖とそれに纏わる様々なトラブルをアイオリアも思い出していると、先程から聞こえる鈴の音もまさか!? と、すんごい顔に戻って鈴音の音源なシュラの胸辺りを撫でたり触ったりし始める。
すると、確かに触る度鈴音がするので疑心は確信となった。

「…!!〜ッ、破廉恥なッ!!」

ウェストガード付近まで一気に冥衣を剥がすと、色の薄い紅色の両乳首には金属製のクリップとそれを繋ぐ鎖、そして先端にぶら下がる鈴が着いていてリアを誘う様に可愛らしい音を立てながら揺れていた。

だが『性行為とは種を繋ぐ男女間の聖なる行為』と定義し、聖域で流行る男色気風に関しては『単なる性処理であり創意工夫等不要』と、目の前のシュラに教わったアイオリアはセックスを楽しむこの様な道具等知る筈も無く、何故シュラの乳首にこの様な物が装着されているのか分からない。

「……?」
「どうしたリア…?ってうわ!!
何でこんなモン付けてるんだよシュラ!?」
「!コレが何か知っているのかミロ!?」

知ってるも何も…と、用途と名称と、カミュがこれを着けて羞恥と乳首への刺激を楽しむ為にランニングをしたところ、あまりの気持ちの良さにうっかり地球半周してしまった話をしてくれた。

「なんと!! そんな物をこんな時に装着するとは!…ッ、この…ッ変態めッッ!」

リアは思わず襟首を掴む調子で乳首に付いたクリップを捻り上げる。
その力はクリップだけでシュラの身体を持ち上げる程であったが五感を剥奪されたシュラには痛みも快感も伝わらない。

且てシュラと男色行為をした際、男役をしていたシュラの乳首に戯れに触れた際、過剰ではないかと思う程反応を見せ、一変してシュラが女役をした際にも乳首を弄ると甘やかな声を上げていたのをアイオリアは見逃さずにいて、以降シュラの性感帯は乳首!と覚えていたのだ。

だが、これだけやっても反応が無いシュラにまたしても疑心が芽生えまくる。

『こんな力任せな乳首への愛撫では感じなくなってしまったと云うのか!?
一体誰にそんな風に開発されてしまったのだ…!? この…淫売めッッッ!!!!』

疑いながらも少しの変化も見逃さぬ様にと、シュラの顔を至近距離でガン見しながら両手は右クリック・左クリック・おまけにフリックフリック!と忙しなく動き続け、股間の怒張は聖衣を持ち上げる程になっていて、このままでは今にも爆発しそうだ。

「ちょっと、いい加減にして下さいよ!」

一刻も早く女神の御前へと行かねばならぬこの時に、見たくも無いのに目の前で繰り広げられるバカップルの乳繰りあいに、いい加減ブチギレしそうなムウが叫ぶ。

だが、張り詰めた股間のままのアイオリアと共に女神の前に参じる等もマジで勘弁して欲しい。
何とかアイオリアの勃起を治めてシュラの乳首から放れる様にと、何か萎えそうなアイテムはないかとムウは探す。

すると足下に転がっていたサガに気が付いた。



「シュラ〜ッ!! 何故何も言わない!? 何故反応しないッ!?
乳首など性感帯に非ずとでも云うのか!?
そんな乳首、もはや乳首と認めん!!」

「認めんて、乳首じゃないなら何なんだ!?」

ミロのツッコミにも耳を貸さずに錯乱し始めたアイオリアの勃起を見ると、聖衣下のズボンに恥ずかしいシミが見え、いよいよ爆発も秒読み段階の様だ。
同僚同士の乳繰り合いでフィニッシュまで目撃する事になるのかとミロがうんざりした時、アイオリアの目の横が真っ白になった。

ガサガサ云う素材、両の目は辛うじて見えるが視界は白く狭い。
顔の縁を軟らかなギャザーが撫で顎の下から頭頂部にかけてゴムで締め付けられる。

この物体は…?



「サガが履いていた紙オムツ、です。」
「アイオリアぁぁぁぁ!!!!」

アイオリアは鼻っ面に丁度股間の高吸収ポリマー体が当たっている事に気付くと、駆け寄るミロを待たずにその場に崩れ落ちてしまうのであった。



一方その頃、聴覚だけは機能していたカミュはアナルに挿入したバイブに感じる事は出来無かったが、今迄の顛末を一言も聞き逃す事無く想像力をフル稼働させる事に依って一人、孤独に絶頂へと達するのであった。



あんなミスコピーを押し付けてスミマセンでした…



戻りゅ!




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