よくある右腕話





 紫龍には秘密がある。

普通の一般的な人間の身体能力を遥かに凌ぐ身体だとか、地上世界をあらゆる悪から守るアテナの聖闘士だとか、秘密と云うには少々顔バレしてしまった事もあるが(銀河戦争とかで)それは一時のブームであって、今では世間から忘れられていると思うのだが、その『聖闘士である』事を踏まえての、更なる秘密があった。

 聖闘士の中でも階級的に最下位に位置する青銅聖闘士な紫龍であったが、度重なる闘いを乗り越え驚異的な成長を遂げ、今では次代の天秤座の黄金聖闘士とも云われて居る。
そんな紫龍の嘗て闘った強敵達の中でも最も恐ろしく、しかしその後の紫龍の生き方にまで影響を及ぼしたのは黄金聖闘士の山羊座のシュラとの闘いであった。
そして紫龍の秘密にも関係するのが、シュラである。


「先程の聖剣は中々の斬れ味だったぞ、紫龍。」
「…はい、でもこの程度では貴方の聖剣には未だ未だ…、」
「謙虚は美徳、流石老師が育てた男だ。
俺も右腕を託せられて鼻が高いな。」

日本での義務教育を終え今生のアテナ・城戸沙織の願いもあって、紫龍は聖闘士としての生活よりも一人の男・紫龍としての生き方を進んで居た。
勿論、何かしらあれば直ぐにでも龍座の青銅聖闘士として、又は次期天秤座の黄金聖闘士として地上の平和を守る為に闘う事は厭なわないが。

勿論日々の訓練は欠かさないし、一緒に住み始めてから十年以上過ぎる春麗に身体の心配をされる程度には聖闘士としての鍛練は熾烈を極めているつもりだ。
今日も今は亡き黄金聖闘士のシュラに指導を受けながら右腕に宿る聖剣の鍛練に励んで居る。

それこそが紫龍の秘密であった。
そして同時に悩み事でもあるのであった。






「よし、今日はここまでにして帰ろう。
きっと春麗がお前の帰りを待ちわびているぞ?」

十二宮での闘いでシュラは紫龍の右腕に聖剣を授け宇宙の塵となった。
だが今、紫龍に効率の良い鍛練(聖剣ver)を指導し、春麗との恋路を揶揄うのもシュラその人であった。
些か小さい、右腕サイズの。

もっと詳しく云えば上半身裸で下半身から下は紫龍の右腕に溶け込む、腕の肘辺りから生えている状態である。
その身体は物理的な物では無く、聖闘士や聖闘士と同程度の力を持つ者にしか見えない所謂『小宇宙』で出来た、謂わばホログラムの様な存在であった。

初めてこのシュラが出現した時、紫龍は聖剣と呼べる程の威力・精度・スピードを維持する事が出来ず悩んで居た。
今では尊敬するシュラの魂とも云える技を、未だ納得出来る程自由自在に出せなかったのだ。

山羊座の聖剣の後継者として恥じぬ様にと毎日小宇宙を燃やし、鍛練に励んでいる内に何がどうしたのかシュラのアドバイスが紫龍に聞こえる様になって来た。



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