よくあるメイド話





 世間的にはたった数ヵ月の間の出来事の筈なのだが何年も連載が続いた様な神々との闘いは終り、一回りも二回りも成長した少年達はある晴れた昼下がり時に城戸邸の談話室で仲間達と和やかな一時を過ごして居た。

「お嬢さんと星矢はそろそろ聖域に着いた頃か?心配だな…。」
「向こうでは邪武達も居るんでしょ?
何も心配する事なんか無いってば。」
「イヤ、そう云うがやはりあの新しい秘書と警備の者達は怪し過ぎてむしろ邪武達が心配するのでは…!?
て、云うかこの屋敷の者全員そうなのだが…、」

いつでもマイペースな氷河は不安げな紫龍とそれをスルーする瞬と、その間に漂う微妙な空気にも構わずにロシアンティーに使うジャムを物色する。
しかしお目当ての種類が無かったのか近くに居たメイドに声をかけた。

「すまないがフレップのジャムを持って来て貰えないか?
何故かここには薔薇のジャムしか無いんだ。」
「フフ、分かったよ。しかし薔薇のジャムも美味しいものなのだよ?」

「メイドさん、無駄口叩かないで早く行ったらどうですか?」
「……………、」

氷河とメイドのやり取りに割って入る瞬の表情はこれまでに見た事の無い氷の様な無表情で、紫龍はその声と言葉にも肝を冷やす。
豪奢な金髪を靡かせメイドが舌打ちしながら部屋を出るとここ数日で何度目か分からない程口にした同じ台詞を紫龍は溢し始めた。

「なぁ瞬…、やっぱりアレはアフロディーテなんじゃ…?」
「は?アフロディーテ?あの人は聖戦で真っ先に死んだんだよ?そんなのが蘇るなんて、バカな事を未だ言ってるの紫龍?」
「イヤ、確かに俺はアフロディーテを見たのは彼が既に死体になってからだったが、あんな女性にしか見えない男性がそうゴロゴロと居る訳無いだろうし…、
それに、さっきも話に出た新しい秘書とボディガードも、どこからどう見てもサガとカノンとアイオロス(多分)とアルデバランにしか見えなかったんだが…、」

どうしても納得出来ない、とずっと思っていた考えを吐露するも瞬の答えも何度も聞いた物で、そうこうしている内に例のメイドが部屋に戻って来た。
今度は紅色の長髪なメイドを引き連れて。

「ご所望の私の手作りジャムを持って来たぞ氷河…!! じゃなくて坊っちゃま!」
「あぁ、有難う水瓶さん。貴方の作ったジャムは今は亡き我が師の作られたジャムとそっくりな味で素晴らしく美味くてな!」
「……! そうか…、これからは私が代わりに作るから安心するが良い…!!」
「…ッ!水瓶さん!!!!」

何だかジャムごときで感極まって車田泣きしながら抱き合う二人に紫龍は懲りずに何度目かの質問をする。

「…その、カミュ…さん、ですよね?…氷河の師匠の。」
「何を云うのだ紫龍よ!! この人はメイド兼、俺専属の家庭教師な水瓶さんだ!」
「そうなのだ!! 私は只のメイドだ!!
氷河…坊っちゃまの師でもましてや黄金聖闘士等では無いぞ!?」

否定する傍からボロボロと嘘なのが判ってしまう言動を本気で繰り返すカミュ(暫定)と、多分本当に判っていない氷河に脱力していると、今度は足音も高く大声をあげながら元祖城戸家執事の辰巳が一人騒がしくその中に入って来た。

「何をサボっておるか貴様等〜〜〜ッ!!」
「私はちゃんと彼らに給仕しているだけだぞ?サボってるのはそこでイチャついてる奴だけだ。」




[ 25/38 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]





第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -