破れ鍋と閉じ蓋って云うかバケツガバマンと巨チンの話





『こんなにも女々しい奴だとは思わなかった。
もっと視野を、心を拡げろ。
それが出来ないと云うのならば二度と私の目の前に姿を現さないでくれ。』

それが聖戦後に復活したアイオロスによる、すっかり卑屈な大人になってしまったシュラに言った言葉である。

昔から自分でこう!と決めたら人の話を聞かない所のある子ではあった。
だが何事にも大らかな(大雑把とも云う/サガ談)アイオロスはそんなシュラの気の済む様に、と大概好きにさせて来た。
だからあの手負いの動物みたいな子供はアイオロスに懐いたのだろう。
アイオロスの次にアフロディーテにデスマスク、そしてサガ、と順番に。

聖域に来て暫く放置された後にアイオロスに見出だされ、アイオロスに促され仲間を作り、アイオロスの弟を紹介され懐かれ、アイオロスに指示され年少者達を指導し…、
本当にシュラの世界はアイオロスを中心に回っていた。
あの日までは。

そしてそれから暫く何があったのかアイオロスは知らない。
沙織や星矢達の生い立ち、そして聖域の者達のそれぞれが歩んだ道の事はそれぞれから聞いているし、アイオロスが死んでいた間の聖域の出来事については歴史として書類等で見る事もできた。

だが一人一人詳しく何があったのか聞く事が出来たのは極限られた者達だけであったし、況してや一々当時の心境など聞いてなどいられない。
それこそ14年程掛かってしまいそうだ。

そんな訳でアイオロスは歴史書や書類を見て、黄金聖闘士達は元より神官文官女官に侍従その他の者達の話も併せた上でシュラ自身の話も聞いて全てを新たに善き関係を築き共に歩もうではないか、と諭した。
だがそれでもシュラからは嵐の様な謝罪を訴え続けられ、梅雨時の様なうっとおしい態度をとられ続け、遂に冒頭の台詞となるのであった。






 アイオロスは教皇補佐である。

黄金聖闘士は聖域の為世界の為女神の為に働いている以上執務もするし教皇に報告もする。
それ以前に聖域に住んでいなくとも聖域に通勤する以上同僚と顔を会わせる事は多々ある。
それなのにシュラはアイオロスに会う度、一々死にそうな顔になりなるべく視界に入らない様身を縮め、声を掛ければ申し訳無さそうに、目を合わす事無く、用件や挨拶は事務的に、しかし一度喋り出すと謝罪だけが延々と紡ぎだされる。
これが三ヶ月続き遂にアイオロスもいい加減にしろとキレたのだ。


 そしてその日のうちにシュラはその身に宿る刃で以て自刃を試みる。
パフォーマンスでは無く飽くまで確実な死を求め、自宮では無く聖域の果ての嘗てアイオロスを追い詰めた断崖絶壁の端で。
手首などと云わず左腕を膾切りにして切り落とし両の脚も太股から切り落とし、横腹に切れ目を入れ最後に首周りと心の臓を突き、念には念を入れて崖から身を投げる。
つもりだったらしい。

シュラにとって運の悪い事に近くでムウの弟子が遊んでいて腕の鯰切りの辺りから見られていたのだ。

黄金聖闘士の動きでも自決を最後まで遂げる事は出来なかった様で連絡を受け直ぐ駆け付けたムウに応急措置を受け、散らばった四肢も拾い集められ『修理』されてしまった。
積尸気へ旅立つ事も無く少々朦朧としつつも意識を保ち、呆れと同情の混じる叱責を同僚達から受けるがそれでもシュラは死ぬ事を諦めてはいなかった。
アイオロスに死ぬ事を促されたと思い込んだからだ。

「だから、そんな意味じゃないだろう?
例えそう、受け止めても真に受ける奴が何処に居る!」

「ここに居ましたね。」
「当て付けがましく感じるが、ここに居るな。」

「コイツはアンタの云う事なら何でも聞くって事忘れたのかよ?
例え死ねって言われても実行するぜ、今のコイツならな。」
「だから、私は死ねなんて言っていないだろう!?」
「だがシュラはそう受け取った。そして未だ諦めていない。
これからどうするつもりなのだ、アイオロス?」




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