ありがちなやおい話





「アイオ、」

そこから続くのは『リア』であって断じて『ロス』では無い。
アイオリアはそう自分に言い聞かせながらシュラの口を己の唇で塞ぐ。






 今の状況のきっかけは何だったのか、―――確か13の年の頃和解し、ここ数年でやっと普通に会話が出来るようになった。
それでも兄の話題だけは不自然なまでに避けてはいたが。
表面上だけはお互いに微笑まで浮かべる事も出来る様になり、今夜など初めて私邸に招き入れ夕食まで一緒に取っていた筈なのだが――。

アイオリアがチラと足元を見ると夕食の残骸や食器がそこかしこに散らばり落ちていて『あぁ、明日の朝に片付ける頃にはこのソースも乾いて掃除し難くなっているかな』等とどうでもよい事が頭を過った。

そのくせ両手は忙しく動き回り、左手で暴れるシュラを抑え込み右手で服を剥いて白い肌を暴いてゆく。

何事かシュラは喚いて煩かったし、何時その唇から兄の名が飛び出すか解らなかったしそれが恐ろしかったので、アイオリアはその辺に置いてあった台布巾をシュラの口に詰め込む。
一瞬怯んだ隙に身体を床上に俯せに抑え付けて下肢の衣類も剥ぎ取る。

そこまでしてアイオリアはやっと落ち着きを取り戻した。

兄の話題は出なかった筈だ。
況してシュラが己を誘った訳でも何かしら色事の話題が出た訳でも無い。

では何故自分はあんなにも焦ってシュラを組敷いたりしたのか。
そして我に返った今も、何故シュラを解放しないのか。

「う、むぅ…!!」

シュラが抗議の声を上げて身動ぐと普段後ろ髪に隠れて見えないうなじの白さが目に飛び込んで来て、今度は何故か思わず噛み付いてしまった。

「!! 〜〜〜ッッッ!!!!」
「、ぷぁッ、」

何度も、何度も、息継ぎを繰返しては噛み付き舐める。
唇に口付けた回数よりも多く、無心に何度もうなじに噛み付いているとシュラが小刻みに震えているのが伝わって来て、漸くアイオリアも唇を離すと白かったうなじは血に塗れていてぎょっとする。

「シュラ!!」

大丈夫か!? と慌てて引っくり返すが全身は力無くアイオリアの動きに身を任せていてとても重い。
顔も青白く、まさか窒息でもしたのかと慌てて口から布巾を取り出すが呼吸は細いながらもしていて、少し安堵しながら首周りの血を拭き取る。
頸動脈でも傷付けたのか血はどくどくと流れ中々止まらなかった。

傷を拭うのに清潔な布と水を、と漸く思い至り立ち上がろうとした時、シュラがうっすらと目を開いたのが見えた。

焦点の合わない、半開きの為いつもより黒目勝ちに見える瞳は涙に塗れ、まるで別人の様だ。
そんな事を思っているとシュラが腕を掴んで吐息の様な声を出した。

『このまま、』






「……………、」

 小鳥の囀ずる囂しい声がいつもより遠くに聞こえる気がしてアイオリアは目を開けた。

室内は薄暗く異臭が鼻をつく。

続いて身体が冷えていて痛みを感じ、そこでやっと自分が寝ていた場所を思い出し、何故そこに居るのかも思い出して飛び起きた。

「!! シュラ!!!!」

シュラは、居た。
乾いた血に塗れ半裸でアイオリアから少し離れた床に転がって居た。
慌てて近寄ってみると血は首だけではなく顔に、胸に腹に腕に腿に尻にと出来た噛み痕から流れ出たのか至る所に乾いて張り付いている。
途端、己の口内に拡がる血の味を認識し吐き気が込み上げて来た。

だが吐くよりも前に、と、気合いを入れぐったりとしたシュラを抱えると風呂場へと向かうのであった。





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