幼児退行話の2





 次いで甦りを果たしたのはミロであった。
だが彼はカミュが復活するまでの間、不思議と声が出せなかったらしい。

そして次に何事も無くアルデバランが、前教皇であったシオンが復活し、少し間をあけてカミュも甦った。

黄金、白銀は元より聞けば海界や冥界の闘士達もポコポコと順調に復活している様だ。
時折聖域へ様子を見に戻って来る沙織はその話を聞いて『雨後の筍みたいですね』と可憐に微笑んでいたと云う。

そして先日、シュラが甦ったのだが様子がおかしいどころの話では無かった事に気付いたのは三日程過ぎてからであった。

あちこちにぶつかっては転がり、右手を無くしたまま復活したので一人では食事も儘ならなかったらしい。
らしいと云うのはシュラは生前、老いた一人の侍従しか宮に置いていなかったのだが、その侍従もシュラの復活のタイミングに聖域への帰還が間に合わず、やっと辿り着くまでシュラの世話は誰もみていなかったからだ。

甦った仲間達が診断した結果、シュラは記憶が戻らず目も耳も聞こえていない状態だった。
精神年齢も貴鬼に比べても未だ低く3、4才程度といった所だった。
しかも大人を極度に恐がり手のかかるシュラが懐いたのは甦った童虎の見舞いに来ていた紫龍であった。

そしてアフロディーテも甦るが矢張り目が見えない様で、代わりにシュラの耳が聞こえる様になった事から、前教皇のシオンが『これは遺恨等強い感情、因縁等を持つ相手が復活すれば治るモノではないか。』と判断した。
その根拠は、ミロの声がカミュの復活に寄って治った事と、シュラの耳がアフロディーテの復活で聞こえる様になった事、そして未だ復活していない者達との二人の関連性をこじつけただけのものであったが。

だがデスマスクの復活で二人の目は見える様になった。

では未だ復活していない残る者達の中で誰が記憶を奪い、右腕を奪ったのか。

「…兄ちゃんはー?」
「しおんさま、貴鬼がわたしに生意気を言うのです。」

残す所、蘇りを果していない黄金聖闘士は後三人。
それまでの間身体は大人・中身は幼児!な黄金聖闘士達はそれぞれ交流のあった者達に預けられる事になるのであった。






「ほらシュラ、おトイレ中はドアを開けない。」
「………。」

 紫龍はおしっこ中のシュラがトイレのドアを何度も開けるクセに悩んでいた。
そもそも侍従でも黄金聖闘士でも無い自分が何故シュラの世話をする羽目になったのか。

確かに自分達は十二宮での死闘を通じ、エクスカリバーをいつの間にか授けられていたりシュラの黄金聖衣のお蔭で命拾いをしたりはしていた。

海底神殿や雪山での雪崩の時にもエクスカリバーやシュラの応援は有り難かったし、彼亡き後で資料や生き残った者達に聞いたシュラの一本芯の通った人柄にも好感が持てたし、聖闘士として尊敬までした。
だからといって下の世話までしなければならないのか、と紫龍は少し泣きたくなっている。

ため息をついて廊下に寄り掛かっているとシュラがトイレからズボンを上げながら出てきて、また1つため息が出てしまった。

「…シュラ、トイレが終わったら水を流す様に言いましたよね?」
「あっ、…ごめんなさい…!」

怒った訳では無いのだが、少しばかり今まで考えていた事と感情が漏れ出て言外に伝わってしまったのか、シュラは慌ててトイレに戻る。

しかし流水音が聞こえて来てもシュラは再びトイレのドアから顔を出さなかった。

訝しく思い扉を開けるとシュラは手洗い場の下に蹲る様に震えていたのが見えて紫龍はギョッとする。

「し、シュラ?大丈夫か?どうし…「ごめんなさい…!つぎはちゃんとします…」






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