思ひ出☆ビンビン





 まるで一枚の宗教画の様に見えた。

光と陰が織り成す厳かな雰囲気の中、周りの雑音など耳に入らず彼の周りだけ黄金色に光り輝いている。
こういった現象を何と言ったか、教諭に教えられた気もするが思い出せない。

 物陰から暫くぼんやりと眺めていると自分の脇を自分と同じ位か幾分年下な子達が歓声を上げながら走り抜け、彼の周りに群がって行く。

『出遅れた』と思わない様にして闘技場の出口へとシュラは向かった。

 数分も歩かぬ内にアイオリアが勢い良く走って来るのが見えて、こちらはまるで金色の仔犬の様だと思ってしまい笑顔になった。

「すら〜!! 大変なの!」

飛び付きながら勢いを殺す為ぐるぐる回って着地すると、リアは幼児特有の甘い香りをさせながら息を弾ませもう一度「大変なの!」と叫ぶ。
その声の大きさと甘い香りに今度は苦笑いしながら何が大変なのかシュラは尋ねる。

アイオリアの話をまとめるとシュラと同じ宿舎の先輩候補生達が呼んでいるらしい。
アイオリアはパシリでは無く、案内人として『様』付けされ、伝言を『託された』事に気を良くしてこうしてシュラの元へと来たらしい。
この伝言に依ってシュラがどうなるか等考える事無く。

「有り難う、リア。アイオロスなら闘技場に未だ居たから。」

尊敬してやまない兄の居場所も聞けてシュラの役にも立ててアイオリアは笑いながら周りをぴょんぴょん跳ねて喜びを表現する。

その姿に手を振りながら指定された場所へと進んで行くと先輩の、しかし実力では既にシュラの足下にも及ばない少年達がニヤニヤしながら立って居るのが見えた。

 数と地形と風上を計算しながらシュラが挨拶すると早速彼等は口早に理不尽な事を言い出す。

『敬え、生意気だ、調子に乗るな、』
うんざりしながらどこで挑発してやろうかと聞いていると自分の後方に先程別れたアイオリアの気配を感じて思わず振り返る。

「何よそ見してんだよ!! 有難い言葉をちゃんと…」

聞け!! と言いながら足下を掬われ、思わず崩したバランスの身体に少年達の蹴りが殺到する。

暫く小突き回され頭だけでもと、ガードし機を伺うが脇を掴まれ顔を強かに蹴り上げられ盛大に鼻血を出す。
そのシュラの姿に、後を着けて来たが恐ろしくなったアイオリアは闘技場に居ると言われた兄を思い出して駆け出した。

血が彼らの興奮を煽るのか益々ヒートアップする私刑であったが丸まって身を守るシュラにリーダー格の少年が馬乗りになると攻撃は一時中断された。

先輩を立てて俺に忠誠を誓え、と。
誓えば可愛がってやるし、この様な私刑も無くなる、と。
恥知らずにも程がある事を彼はニヤニヤ笑いながら言って来たのだ。
女神を奉じ、聖闘士としての生き方全てを覆す事を彼に強要されシュラは頭に血が上り、目の前が真っ赤になるのが解った。



その時英雄ロスの涼し気な声が聞こえて来た。







「おはよ、シュラ。朝は吉牛で良い?」

良い臭いに鼻をひく付かせながらシュラが目を覚ますと、ロスが襖を隔てたリビングで吉牛(特盛り×6)を並べていた。

「…何で、居る…アイオロス…」







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