バカップルと聖域
聖域より出て直ぐの観光地も何も無いバスの旋回所的な鄙びた村のバスの停留所に外国の山にでも挑戦するのか、重装備な若い登山家達が数名バス待ちをしている。
実は登山の装備にカモフラージュした聖衣箱と密命を受けた聖闘士と雑兵達であったが、そんな事が分かる者も居ない田舎の村の早朝。
朝霧煙る中、そのバス待ち集団にまた一人少年が加わった。
「「お。」」
目が合うと、少年と集団のリーダー的存在の青年が同時に声をあげた。
近寄る少年に対し集団からはひそひそと誰に言うでもなく声が上がる。
だが、そんな声はまるで聞こえていないかの様に、少年は集団の中心に向かい改めて挨拶を交わす。
「夜逃げか?シュラ、随分な大荷物じゃないか。」
「…おはよう、リア。
夜逃げでは無い。任務だ。」
ンな事ァ分かってるよ!と、睨むリアに今回トルコ山岳地帯に任務で赴くシュラは、最近少し覚えたドヤ顔で微笑む。
「お前は見送りか?」
「何でだよ。俺はお買い物!」
始発の空港行きのバスでどこまで買い物に出るつもりなのか、とシュラがニヤニヤしていると件のバスはやって来た。
大学の登山部の部員の体をした雑兵達がアイオリアを訝しながら次々と乗り込んで行く。
最後にシュラが乗り込むがアイオリアは動く素振りを見せない。
「…乗らないのか?」
シュラの疑問にアイオリアは笑顔で首を振り、
「忘れ物したからな。行って来いよ!
山羊と馬鹿は高い所が好きなんだろ?」
と、返す。
『馬鹿』の単語にいきり立つ兵達を手で制したシュラは、その『挨拶』に対しアイオリアの額に口付けを落とし頬を擦り合わせる挨拶を返す。
「!!!! な…、!?」
「昔は良くやった。『行って来ます』の挨拶だ。」
顔を真っ赤に染め咄嗟に言葉が出ないアイオリアを置いて、見計らった様にバスは扉を閉めて発進する。
何事か叫ぶアイオリアを、目を細めて見続けるシュラに兵達は驚き、腰を浮かせたまま空港まで呆然と見続けるのであった。
「…そんなイケ面クール攻を気取ってかまして来た訳ですね。」
「…頼むから人の思い出を勝手に覗かんでくれムウ…。」
今回の任務帰りに、アルデバランから噂で聞いた聖衣修復依頼をし、それよりも何よりもティタノマキアでの礼を、と、シュラはジャミールのムウ宅へとお邪魔していた。
先ずは世間話的に聖域の近況を伝えていたのだがここに至るまでの話から、ふと、リアとの数日前の朝のやり取りを思い出してしまい、その感想をムウに真顔で述べられシュラは思わず赤面する。
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