聖戦後の状況説明・1




 女神の呟きの「そろそろ良いと思うの」と、現行の代理教皇を聖衣の修復作業と兼業している為平均睡眠時間約90分な生活を続けるムウの呟きの「いい加減にして下さい…」が出たのはほぼ同時期だったらしい。

 聖戦は終わり、戦い抜き生き残った者達は死した者達への哀悼とこの先の世の平和を誓い、女神と共に現世へと戻って来た。
 意識が戻らぬ星矢も何だかんだで一年掛かりで通常運転に戻り、星矢の事しか頭に無かった女神・沙織はここでやっと、第二の故郷・聖域の事を思い出す。


 そして沙織は聖域の復興に取り掛かる事となった。

 だが、状況は聖戦から一年以上経つのに変わっておらず、資料も資金も人員も不足、中でも雑兵ばかりで聖闘士が不足しているから世界中から寄せられる案件を解消する事も出来ない。
そればかりか聖域内のちょっとした土木工事すらままならない状況を目の当たりにする。

 これはどげんかせんといかんと、グラード財団からの支援を決定するよりも前にハーデスの元に乗り込み黄金聖闘士達を蘇らせる事から始める事にした。
沙織はトップが節約する事から健全な企業経営が行なわれると信じているのだ。
使える物は使えなくなる迄使うべきである。

 そんな訳で呼び掛けに応じた者達限定ではあったが黄金聖闘士達は現世に次々に蘇った。
(沙織に使われる為に。)





弟子を案じるムウ、
存分に戦う機会が無かったアルデバラン、
女神を案ずるカノン、
後輩達を心配するアイオリア、
凡俗には理解出来ぬ理由のシャカ、
私邸に残したエログッズと借りっ放しのDVDと愛車とバイクが気になるミロ、
弟子の事しか頭に無いカミュ。

「…他の方々は蘇りに応じて下さりませんでした…。」
「サガ…」
「アイオロス兄さん…」
「シュラ…」
「アフロディーテも…?」
「あと、誰だっけ?」

再会の喜びと僅かに残る寂寥を胸に、居なかった事にされているデスマスクを放置しながらも新しい日々が始まった。

 先ずはサガの乱以降代行していたムウが再び教皇となり牡羊座でA型のリーダーシップを発揮し、聖域は秩序と威光を取り戻し始める。

しかし聖域の実務を長年担っていたサガ達の作り出した謎の組織やら不明口座や株やら用途不明な資金等は、シャカが口寄せなどで当事者から詳細を聞かなければ判らない等、余計な手間が増え時間も人手も無いムウが遂にブチ切れ冒頭の呟きに戻ったのであった。
(因みに沙織の呟きは聖域に三時間だけ戻ってトンボ返りで帰国し星矢のお見舞いにリンゴを剥きながら退院の日程を考えた物であった。)


 かくして二度目の蘇りが行われた。

今度は強制的に。

 聖域のほぼ中心、火時計の下、かつて黄金集結が行われた黄金の間に並べられた持ち主の居ない聖衣。
オブジェ形式ではなく装着出来る様に並べられた鎧に黄金の光が集まり、徐々に人型が出来たと思った瞬間、見守っていた人々は懐かしい者達との再会を果たした。

「…サガ!」
「兄さん?」
「シュラ!大丈夫か?」
「アフロディーテ…!」
「アレ?何で蟹?」

それぞれ、カノンが、アイオリアが、紫龍が、瞬が駆け寄り、デスマスクは無言でミロに蟹挟みを仕掛けて取っ組み合いを始める。

 微笑ましい再会劇を見ながら、殆どの労力はハーデス持ちとはいえ二度も手間暇をかけ、些か疲れた女神が遣り遂げたイイ顔をしながらその場を退場しようとしたその時動揺が走った。

「サガ…?女神、サガが目を覚ましませぬ…!」
「シュラ?!その腕は…!?」






[ 1/100 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -