そう言う行為があると言う事は生き物としての機能として確かに教えられていた。

雄と雌。繁殖本能があり、身体を合わせるのだと。

けれど詳しい閨の話となると何も分からない。どうやってどうなるのか。自分はどうすればいいのか。しかし経験を持っていそうな妙齢の教師に幾ら問いかけてもそう言う殿方に任せておけばいいの一点張り。はしたないと一喝される事もしばしばでとても情報を引き出せる雰囲気ではなかった。

女学院の友達からあくまでも少しだけ、教えて貰った情事はとても非現実じみていて自分がそうする事になるなんてとても思えなかった。

でも今は――。


「あっ、あんっ、ああ」


足を広げた中心を酷く刺激され、その何とも言えない心地好いような切ないような快感に声を上げている。

実際私には耳の中で反響するはずの自分の声も聞こえないのだが断続的に吐く息から多分音は出してると思う。

――気持ち良い。

娯楽に乏しい今の私の世界には享楽は願ってもない。

腰を掴み、揺する男の手も滴る汗から香る匂いも私に感じる事が出来るものの中で数少ない好きな物だ。

私を組み敷く男が誰かは分からないけれど、とても私を大切に扱ってくれている。愛されているとも思う。

だからこの行為を私は良い事に分類した。

以前耳にした床での交わりには話すら微かに嫌悪の心すらが沸き上がったと言うのに今では淫らに腰を振る始末だ。

…誰が責める?お父様もお母様も、…お兄様さえも。どこか分からないここには、私の側にはもう誰も居ないのに。よしんば居た所で罵倒の言葉も嘆く姿も私には分かりやしない。


「は…あぁ、あんっ、ああっあ」


男の動きが激しくなって目の前の身体に抱きつくと不意に熱い背中がぶるりと震えた。

そうして膣内に吐き出される何か。

眩む頭の中でそれが何を意味しているのか、そうし続ける事でどうなるのか理解している。

けれど私はそれを見えなくなってしまった目以外の瞳でも直視するのを拒んだ。

繋がった部分が益々ぬるぬるに濡れていくのを感じていても私は私の全てを支配する男の願うように足を開くだけだ。





*****





可愛い喘ぎ声を上げる姫様を思い切り揺さぶり、中に根元まで突き入れるととんでもなく締め付けられる。

今更何回目なんて数は数えていない。

けれど今まで経験してきた情交の中で姫様との交わりが一番気持ち良かった。勿論技巧の面では姫様は皆無だし、身体的にそちらは俺も望んでいない。

だけど姫様を組敷いて抱いているのが俺だと思うとそれだけで達しそうになる。限界が迫っている時は余り…そう、その事を意識すると持たないので自然と視線を反らす事もしばしばだ。

腰が溶けそうな快感にぞくぞくと震えながら射精すると細く絶頂の悲鳴を上げた姫様はぎゅうっと俺に抱き付いて弛緩した。


「はぁ…」


ゆるゆると情交の残り香を堪能するように腰を揺する。ぐちゅぐちゅと言う音は出した精子を子宮に押し込む行為だから笑える。

姫様――妹との子供が欲しいと思っているのか、俺の本能は…。

言い知れない苦々しさに我を忘れそうな快感がただの心地好い気だるさにやがて変わって萎えた一物を抜いた。出したものがつぅと姫様のそこと繋がって蠕動の度に内から溢れてくる。

――自己嫌悪。

今の感情に名前を付けるならそれだ。今更そんなお可愛らしい良心が残っていた事には驚きだがそれは姫様をここに閉じ込めている事に対してじゃない。

俺の中の穢らわしい血に対してだ。

子種に欠陥が出ている俺は雄としては不良品かも知れない。けれどその事に気付いた時俺は確かに絶望したが同時に微かに安堵していたのを覚えている。

俺はあいつとは――あいつらとは違う。あの家を壊してしまえば全ては終わるんだって…。

だから今俺がやっている事は本来なら本末転倒だ。復讐に染まりながら不幸を作り出そうとしている。それは許されない事だ。

濡れた身体を拭きながら気絶するように眠ってしまった姫様を見る。

滲むようにじわりと愛おしさが沸き上がってきて同時にその細い首を力一杯絞めてしまいたくなる。けれどそれと同じくらいあどけない表情に腹の奥で暗いものが溜まり、必要以上に姫様の身体も大切に清拭した。

愛しているから貴女を抱く。憎くて仕方ないから貴女を生かす。

今のこの状況を鬩ぎ合う愛憎が良しとするから人形となった姫様を本当の意味で楽にする事は俺には出来ないだろう。

柔らかくて仄暗い感情の両方が貴女を愛でる今を心から喜んでいるから。


「――姫様」


貴女にはもう伝わる事はないけれど…俺はずっと貴女の事を深く、深く。狂おしいほどに――。


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