少し前の淡い色の花々も可愛らしく思うが今の時期の草花は青々と色が鮮やかでとても美しい。

庭師によって綺麗に整えられた庭の一角でティータイムを楽しむ夫婦の姿は彼らの美貌も手伝ってまさに一枚の絵を見ているようだ。

藤の花の花弁がひらりひらりと景色を紫に舞い染める。

同じ気持ちなのか、隣からふぅと深い息を吐く音を聞いた。

――前雇い主であるブラッドリー・アルマンド様が亡くなって暫く経つがアルマンド様が暗殺された直後、誰がこんな風になると想像しただろうか。

あの嵐の夜の惨劇は日常から切り取った地獄そのものだった。

血と悲鳴と。今の穏やかな空間とは似ても似つかない。

皆にアルマンド様の死を伏せるように言い、屋敷から姿を消したカズキ様もあの時は冷静に振る舞っていたけれどその落ち着きは明らかに表面的なものだった。

慕って止まない主人を手に掛けた誰かに対する怒りと全てが崩れ去ってしまった絶望感に目が眩んでいるように見えた。

皆に優しく穏やかなカズキ様。

だけど反面、いつも言葉を上手く包んでいるようにも思う。彼を本心を知らず、会話の端々から意志の強さが伺えるカズキ様はそのアルマンド様を慕う気持ちの大きさからもしや…なんて噂も使用人の間でも囁かれてはいたけれどそんな心配は無用だったと今は思う。

アルマンド様の弟君に正式になられ、爵位を引き継がれた事にも驚いたけれどふらりとカズキ様がどこかの高貴な身分の女性を妻としてお連れになられた時は皆一様に目を丸くしたものだ。

カズキ様は確かに見目麗しく紳士的でメイドの中でも密かに人気のあったけれどとても静謐な方でそう言った色事には積極的になられないように見えた。それは主を一番に考えていて己を二の次にしていただけだったかもしれないけれどああいう風に仲睦まじくしている姿を意外に思う者も少なくないだろう。

――あ、手を繋いだわ。

何か秘密の相談でもしているのか小さなテーブルを囲み、身を寄せ合ってくすくすと笑い合う二人の姿は幸せそのもので側に控えている私達の方が当てられてしまいそうだ。

嫁いでいらっしゃったコレット様もとても純粋な可愛らしい方で疎ましく思う所かどうにも私達も構ってしまいたくなってしまう。

主人が居なくなってこの屋敷も変わってしまうと思ったけれど以前と同じように――いえ、また違った形でより良い姿になって行けるのではないかと紅茶を囲み、仲睦まじく甘やかな時間を過ごす夫婦を眺めながらそう思った。




ブラッドリーのスチルはとても綺麗で幻想的な物が多いと思います。藤の花が美し過ぎる。

何となくあの光景を客観視したかったのでこうなりました。


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