「…ゆき?」


ぽつりぽつりと促されるまま他愛もない話を続けていたがと不意に相鎚が途切れた事に気付き、俺は顔を上げた。

目を瞑ったゆきから規則的な寝息が聞こえる。もっと聞かせてとごねた割に横になってみれば呆気のないものだ。

――当たり前か、もう夜もかなり遅い。

ただでさえ身体に鞭打ち、白龍の力を行使しているのだからそれこそ泥のように眠ってもおかしくない。ましてや、ゆきの話を信じるならば時空を越える為に多大な犠牲を払ったと言う。…こんな下らない事で彼女の時間を消費させるのではなく、一刻も早く眠りに付かせてやるべきだった。


「すみません、ゆき…」


それでも俺は、彼女と言葉が交わせて嬉しかった。積年の想いを告げられたからじゃない。…もう、残り僅かしかないだろうからだ。

そっと夢路に向かっているだろうゆきの額に触れ、軽く前髪を撫で付ける。外の寒さなんて感じさせないほどの暖かな春色のゆきの髪。柔らかく、心を満たすその色はまさにあなたそのものだと俺は思う。

――ゆき、大切な俺の神子。

このままずっと眠るあなたの顔を見詰めていたい。長い睫毛が伏せるその目蓋を開いて俺を映して欲しいと心の底から渇望しているのにまだ目覚めないでくれと思ってしまう。


『瞬兄の気持ちが嬉しい』


俺の身勝手な想いを厭う事も跳ね除ける事もしなかったゆき。

未来が無いのなら――この先一緒に居てやれないのなら、気持ちを押し付けるべきじゃないと分かっていた。嫌われなくてはならない。…それにゆきは優しいからこんな事言われてもきっと困ると知っていながらも俺は…溢れた想いを我慢する事が出来なかった。

ずっと、初めて夢路であなたの姿を見た時から俺にはあなただけだったから…。

けれどぶちまけてしまった俺にゆきの反応は意外なもので俺を兄としてか見ていなかったはずなのに――恥ずかしそうに頬を赤らめ、俯いた。

そしてゆきは諦めないと――俺との未来も探してみせると言った。前に進む意思を持つ白龍の神子として己を犠牲にしてでも何度も時空を越えてみせると言った。

…俺がどれだけ嬉しかったかあなたに分かりますか?

指がさらさらと髪を梳く度、愛しくて苦しい。

……あなたは俺を助けて見せると言ったけれどきっと未来は変わらない。けれど焦がれるものに触れ、甘やかに時間を過ごせる今が刹那であっても身が震えるほどに幸せだった。


「あなたが怖い夢を見ないように今日は…今日だけは――」


使命を忘れてこの恋情に浸っていたい。

……明日からはもう側に居る事さえ出来ないのだから。



刹那の甘やかな時間は忘れてしまってもきっとここに残っている。






ちょっとつつくとデレの奔流が止まらない瞬。こう…この後のED後を考えると色々凄まじいですね。

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