午後3時のしあわせ
「リメッタ、きみには里親が見つかるまでこのアジトで生活してもらう。メンバーには交代でここにいてもらうから、きみがひとりになることはない。いいな?」
リメッタは元気よく首を縦に振った。あれから少し話し合いをして、取り敢えず今後のことは大方決めることができた。彼女をナランチャの家に置くことも考えたが、やはり心配だというフーゴの声でこのアジトにいてもらうということになったこと、そして里親が見つかるまでに俺たちでリメッタがスタンドをコントロールできるように教えること。
「じゃあ、今日はブチャラティさんが私と一緒にいてくれるの?」
「そうだ」
そう言うとリメッタは嬉しそうに笑う。あの手紙の一件以来かなり懐いてくれたようで、それはナランチャが複雑そうな表情を浮かべるほどだった。
「リメッタ、早速なんだが、ここは大の男ばかりでな。子供向けの菓子なんかは無いから、一緒に買いに行かないか?」
「買ってくれるの?」
「当たり前だ。そうじゃなきゃ意味無いだろう」
そうなんだ、とリメッタは何かに気づいたようにあっけらかんと言った。そのあとリメッタの口角はみるみる上がっていって、ふふ、と嬉しそうに声を漏らした。
「うれしいなあうれしいなあ、誰かと一緒にお買い物に行くなんて初めてなの!」
彼女につられて自分の顔にも思わず笑みが滲み出てきそうなくらいの笑顔だった。そして俺は思いつく限りの子供向けの菓子を思い浮かべながら、その小さいリメッタの手を取った。
「まあ、ブチャラティ! まさかあなた……」
「冗談だろ。ただ親戚から預かっているだけさ」
次から次へと掛けられた声はどれも同じような意味を持つもの。夢中でジェラートを食べているリメッタには聞こえていないみたいだったが、まるで親子に向けられるようなそのなんとも和ましい雰囲気が少しむず痒く思えた。
「美味いか?」
「うん、すっごく美味しい!」
自分と繋がっていないほう手には既に可愛らしいデザインの紙袋が握られていて、もしその袋に顔を近づけたとしたら、きっと甘くていい匂いがするはずだ。
「他に何か欲しいものはあるか?」
「ううん、もう大丈夫。充分買ってもらったし……本当にありがとうブチャラティさん!」
嬉しそうに自分に向かって紙袋を掲げるリメッタはなんとも愛らしい。なんだか自分が彼女の親になっているような気持ちだ。
「帰ったら一緒に食べるか? 確かナランチャも来てるはずだ」
「ナランチャも? 楽しみだなあ、」
にこにこと笑う彼女のその表情は抑えられないくらいに幸せそうだった。握られている手も楽しそうに揺れている。おそらくナランチャは里親探しに疲れているだろうから、あいつの喜ぶ顔が用意に想像出来る。彼女と一緒に笑い合うナランチャを思うと、きっと嬉しくってしょうがないに違いない。
もし自分も二人の間に入れてもらうことが出来るとしたら、ひどいくらいの穏やかさを感じられるのだろうか。
2019.2.9
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