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そろそろ返してもらいたい




ブチャラティとアバッキオが出て行っている間は、この少女……リメッタの面倒を見るだけだと気を抜いていたのに、ナランチャがフーゴに彼女との思い出を口にした瞬間、こうも険悪になってしまうなんて思いもしなかった。


「……きみがあの子の勉強を見てたって……よくその頭で人に物を教えられましたね」
「文句あるかよ!」
「まーまー、今殴り合いになったら……あー、リメッタが泣いちまうぜ? 」

物騒な目で睨み合う二人から目を逸らして、ピストルズと戯れるあの少女を眺めた。意外にも彼女は新しい環境にも適応しやすい性格らしい。もう打ち解けてしまったようだ。俺が 「あの子供の面倒見とけ」 って言ったら面倒くさそうにしてたのに、子供と接するのが新鮮だからなのか随分楽しそうだ。

「みんなはセックス・ピストルズってお名前なのね? どうしてNO.4はいないの?」
「ソリャアナア、縁起ガ悪イカラダゼ!」
「どうして縁起が悪いの?」
「生マレタ時カラソウキマッテンノサ!」


不思議そうに首を傾げる彼女に、ピストルズはくすくすと笑っている。そののほほんとした雰囲気に、俺は一言、「あっちに混ぜてもらいたい」 と思った。無論、俺がこの喧嘩になりやすいフーゴとナランチャと一緒ということはあの少女ではなく、この二人を子守するような役割を与えられたようなものだから、そんなことはできないのだが。








「里親?」
「そうだ」


無事アジトへ帰ってきたブチャラティ達が言うには、本当に彼女の母親とフーゴの写真の男は彼女の手によって殺されていたらしい。いや、正確には彼女のスタンドが、だけど。それでもこんな十つにも満たない少女が、と考えると思わず俺達は息を呑んだ。ピストルズに囲まれながら不安そうに眉尻を下げているリメッタにブチャラティは柔らかい笑みを向けると、小さく手招きをした。恐る恐る彼女はブチャラティのほうに近寄る。

「きみの家にお邪魔したんだが……テストで100点をもらうなんて、リメッタは頑張り屋なんだな。すごいよ」
「……!」


きみの家に、ということを聞いたリメッタは一瞬びくりと体を震わせた。でもその後の言葉にひどく安心したようだった。そしてブチャラティは1枚の紙を差し出す。それは継ぎ接ぎにテープで接着されたテストの解答用紙らしきもので、100、という赤い数字とその隣に手描きの可愛らしいスマイリーフェイスが描かれている。そしてところどころが不自然に修正液で厚く塗られていた(絶対に見えないように透けそうな裏面にまできちんと塗布されている)。

「……おにいさん、ありがとう」
「ブチャラティでいいよ」
「ブチャラティさん、ありがとう!」

渡されたテスト用紙を持ったまま嬉しそうに抱きつくリメッタに、ブチャラティも微笑ましそうな顔で彼女を抱きとめた。暫くしてブチャラティは 「廊下の突き当たりに部屋があるから、暫くまたピストルズとお喋りでもしておいで」 「うん!」 と軽く彼女と会話を交わし、彼女はそのまま俺のピストルズとともに部屋を出ていった。



そして現在に至るというわけだ。


「俺は街に知り合いが多いから協力はするが……ナランチャ、お前がリメッタの里親を見つけるんだ」

里親、当然だがそれは代わりの親ということ。血の繋がった親を無くした彼女のことを思えば里親を見つけるという行為は至極当然のものだった。しかしリメッタ……そしてナランチャもすべては親がきっかけだった。だからナランチャからすればそれはあまり好ましくないことだった。

「俺の家に住まわせたりしちゃあ駄目なのか?」
「駄目だ。彼女を危険に晒すことになる。まだ手遅れなんかじゃあない。里親と幸せに暮らせばまた彼女は普通の一般人として生活できるんだ」


ナランチャは押し黙る。バンダナから飛び出た髪が控えめに揺れているのが、なんだか泣きそうになっているみたいだと思った。

でもそれはただ俺の勝手な感想で、当の本人はそんな情けない気持ちを抱いているわけではなかった。

「わ、分かった……俺、絶対あいつを幸せにしてくれる人を探す! ちょっとリメッタにどんなお母さんが欲しいか聴いてくるよ!」


ブチャラティの返事も待たないうちに、ナランチャは彼女のいる部屋へとドアを勢いよく開けて行ってしまった。

呆れたように笑うブチャラティに、呆れたようにため息をついたアバッキオ、意外そうに目を丸くしたフーゴ。なんだか面白いことになりそうだと、俺はナランチャを追いかけた。


2019.1.31


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