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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


妖精は幻覚だと思ってた




用事がある、と言って出ていったナランチャが戻ってきたのは真夜中だった。それも、血塗れの少女を連れて。


「ブチャラティ、こいつを助けてくれよ」


自分に働かせてください、と懇願したときはあんなにきりっとした表情をしていたのに、今のように泣きそうなナランチャの顔を見たのは初めてだったように思う。連れてきた少女はナランチャの背中を上で眠ってしまっているようだった。目元が赤く染っているところを見る限り、泣き疲れてしまったのだろう。今すぐにでも事情を説明してもらいたいところだったが、朝になれば他のやつらもアジトにやってくる。説明は一度で済ませた方が良いに決まっているから、取り敢えずのところ、ナランチャには寝ろとしか言えなかった。それでもさっきソファに寝かせた少女に寄り添うように体を倒すナランチャを見て、どこか焦っていた気持ちが少し落ち着いたような気がした。







「そんで? このお嬢ちゃんにスタンドが発現しちまったのはいいけど、暴走して母親まで殺しちまったんだ、って? ま、別にいいだろ。暴力してたんなら自業自得みたいなモンだぜ」
「取り敢えずこの子を起こした方が良いのでは」
「ナランチャ、できるか」

次々に進んでいく話にナランチャは目を白黒させた。事実、ナランチャ以外が少女を眠りから覚まさせてしまえば、混乱してまた暴走してしまうかもしれない。これは現時点ではダントツで彼女との信頼関係を築き上げていた(というか他のメンバーは全員ほぼ初対面だ)ナランチャだけができることだった。

「わ、わかった……」


ナランチャは毛布に包まる少女の背中を二、三度軽く揺らした。
やがて少し声を漏らして上半身を起こした彼女はその澄んだ瞳をゆっくりと動かした。

「……ナランチャ? ほかの人はだれ?」

わずかに震えていて、怯えているような声だった。目の前にいるのがナランチャというのとは確認できたようだが、確かにこんな大の男に囲まれているなんて少なくとも女性という性別に当てはまる人間なら年齢は関係なく怖がらない者はいないだろう。

「みんなは、俺の“仲間”だ。敵じゃあない」
「なぐったりしないの?」
「しない、そんなこと絶対にしない」


ひどく純粋で残酷な問いに、皆の息を呑む音が聞こえた気がした。また彼女の綺麗な瞳が揺れる。恐る恐る喉に力を込め、怖がらせないようにゆっくりと俺は彼女に近づいた。

「……そうだ、俺達はきみの味方だ。きみの名前は?」
「……リメッタ。リメッタ・カーチア」
「そうか。リメッタ、きみの家の場所を教えてくれないだろうか」
「え、えと、ナランチャと会った公園の近くのアパート……二階の一番奥のお部屋だよ」
「ありがとう」


まず俺が考えたのが彼女の母親の死体の状態だ。万が一、一般人に見つかればさらなるトラブルに繋がりかねなかった。しかし彼女が自分の家の場所を答えた瞬間、フーゴがその眉を顰めた。

「僕、その住所知ってます。入団試験に失敗した奴がいるから、その死体処理と一緒にライターを回収してきてくれって……」


フーゴはテーブルに置いていたファイルから一枚写真を取り出すと、リメッタにそれを見せた。彼女は、このひとしってる、とだけ答えてみせた。その声色にはなにか不満な気持ちが混ざっているような気がしたから、きっと彼女にとって良い人物というわけではなかったのだろう。


「母親が男を連れ込んでたってわけだな」
「じゃあリメッタは元々じゃあなくて、あのポルポのライターのせいでスタンドが発現したってことかよ?」
「そうなるな」

そう言うとナランチャはぎゅっと自分の拳を握り締めた。ぎり、と微かに歯を噛み締める音が聞こえた。

まだ状況が分かっていない(分かるはずもないが)リメッタはその間もずっと不安そうに辺りを見渡していたがその黒目の動きが止まったのは、よく耳にしていた小さな六つの人影が彼女の目の前に現れたたときだった。


「辛気クセー顔シテンジャアネェ!」
「No.3、初対面ノ人ニソンナ酷イコト言ッチャ……」
「ウルセェッ!」
「ナ、殴ラナイデクレヨォーッ!」

「……!? え、あ、えと、な、なかないで……」


今までの怯えていた表情が嘘のようだった。俺達にとっては慣れたものだが、いつものようにNo.3がNo.5を殴った瞬間、リメッタはあわあわと今目の前にいるのが何者なのかも分からず、とにかく二人を止めようとその小さな手で泣き喚くNo.3を頭を撫でた。その間にも他のピストルズは興味津々に彼女の頬をつついたり髪を触ったり。彼女自身今はそんなことに構う余裕はなさそうだったが。

「ミスタ……」
「俺、こーゆー雰囲気ヤなんだよな。胸糞悪ィったらありゃしねー」


やれやれと言ったふうにミスタは大きくため息をついた。そのまま彼女がピストルズに集中している間に、ミスタは耳打ちをするような声で俺達に言った。

「こんな子供なら万が一のことがあっても三人いれば充分だろ。今のうちにコイツの家に行ってこいよ」
「……そうだな、ありがとう。じゃあ俺と……アバッキオ、来てくれるか」
「ああ」


彼女をどうするか決める前に、まずはどういった経緯でこうなったのか調べなければ。俺の能力なら鍵が無くても無理やりこじ開けなくてもどこにでも入れるし、アバッキオがいれば調査はやりやすい。

部屋を出る前に振り返ると、さっきとは違いほっとした表情で彼女を見つめるナランチャが映った。



2019.1.26

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