×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






勿体なくて使えない


こんなに素敵な先輩がいるなんて! と、当時リディアは思った。きっかけは自分の通う中学校にいた教師たちだったが、お世辞にも彼らは良い教師ではなかった。

リディアはもともと二つの高校を進学先の候補にしていた。仮にA高校とB高校とする。A高校は当時頭の良かったリディアの成績にぴったりではあったが、出来ないものは容赦なく置いていくというなんとまあ無慈悲な場所で、もう一方のB高校はリディアの成績よりかは少し低いが、生徒皆がいきいきとしていた。何よりも教師も生徒も仲が良かった。教師らは当たり前のように前者を薦めたが、友人たちは後者を推した。

そんなときだった。当時物事に対してはなかなかの優柔不断であったリディアはその雰囲気から誰にでも気に入られやすい性格であったためか、なんと彼らはその高校の関係者を招いてくれたのだ。教師たちはB高校の生徒を招くことを渋っていたが、友人たちの強い反発のおかげでなんとか平等に話を聞くことが出来た。A高校は教師、B高校は自慢だという生徒を連れてきた、最初に面会をしたA高校は本当に酷いもので、リディアがなにか質問をすれば偉そうに敬語も使わず受け答えをしてきたし、こちらを見下している雰囲気がご丁寧にしっかりと伝わってくるものだった。そんな流れでやってきた友人一押しの学校の先輩は背が大きくてはっきりとした顔立ちをしていたものだから、最初リディアは厳しくて怖そうな人という感想を持ったが、話を聞けばとても誠実で正義感に溢れた人だった。良いところも悪いところも聞けばちゃんと返ってくる。結局のところその彼は 「決めるのはお前だ」 と念を押してはいたが、その時点でもうリディアの心は決まっていたのだ。

彼との面会時間はとても時間が短くて、A高校の教師との差は明確だった。それでも文句を言えず寂しそうな顔をするリディアを目にした彼は、表面上は笑顔で送り届けようとした中学校の校長にとんでもない言葉を吐いたのだ。

「面会時間に差をつけるなんて、彼女を馬鹿にしてるのと同じだと俺は思うんですが」

一応、と言葉が必ず付きそうな敬語を使って、彼は校長を睨んだ。

そんな彼に惹かれてしまったリディアは、それ以来教師達の意見を全て無視し、彼のいる高校へと入学した。幸いにも面会をした時彼は最高学年ではなかったから、リディアは部活が同じだった上級生を通し、見事再会したのだ。そしてありがたいことに彼は自分の顔を覚えてくれていて、名をアバッキオと言った。しかし彼女はそれからずっと彼のことを先輩、と呼び続けた。ずっとついてまわる彼女に彼はよく自分の夢を語ってくれた。



そんな幸せな時間が過ぎ、その日はアバッキオ、つまりリディアの言う“先輩”の卒業式だった。リディアは彼からあるプレゼントを貰ったのだ。本来ならば後輩であるリディアが何か渡すものだと言うのに、彼は眩しい笑顔でそれを手渡した。それは憧れのブランドのルージュで、化粧の薄かったリディアにぴったりな薄づきで綺麗なピンク寄りのコーラルカラーのものだった。

「自分のを買うつもりだったんだが、これを見たとき、お前に似合うと思ってな」
「これを、私に?」
「そうじゃなけりゃなんだって言うんだよ」
「……ふふふ、ごめんなさい、私、すごく嬉しいんです! ねえ先輩、これをつけた私と最後に写真を撮ってくれませんか?」

もちろんだ、と先輩は笑った。今でもその写真は一人暮らしの自分の家に大事に飾ってあるし、仕事のときにも御守りのつもりでポケットに入れて持ち歩いていた。卒業後、アバッキオが配属されたという町まで出かけて彼を探すこともあった。彼は次いつ会えるかは分からないと言ったが、それはつまりいつかは会えるという意味だと彼女が思ったからだった。しかし、彼を見つけられる日が来る前にリディアは次の進路を考えなければならない時期になり、結局リディアも彼も大きな変化を遂げた後にやっと二度目の再会を果たすことになったのである。






2018.12.2