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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






過去のピースを嵌め込む


もし夢主がギャング堕ちしていたら。マスコミにあることないことばらまかれて今に至ったというかんじです。でも雰囲気はそんなに本編と変わらない。

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きちゃいました、と嬉しさと悲しさを含めた負の感情もろもろがうまい具合に釣り合っているような笑みを浮かべながらリディアは言った。あのルージュの落し物をしたとき、もう既に気づいていたなんて、とか、どうしてこんなところに来てしまったんだ、とかいう疑問や混乱は全て吹っ飛んで、黙ることしか出来なかった。彼女の目は既に覚悟をしていたそれだったから、怒鳴り散らすことも出来そうになかった。結局将来のことを決めるのは彼女自身なのだから。

リディアがオレと話すときは、高校時代のことはすべて忘れたかのようだった。ブチャラティが彼女を連れてきたとき、彼奴はオレにすまないと頭を下げた。きっともう止めることは出来ないほどに更生させることは手遅れだったのだろう。リディアは昔に比べて何もかもが変わってしまったように思えた。



ただそれは他の仲間が同じ空間にいるときだけで、そうではないときは何も変わっていなかったのだ。



「ねえ先輩、もう一回言ってみてください、昔みたいに」
「嫌に決まってんだろ」

二人で誰もいないアジトにいる時だけは、呼び方が昔の 「先輩」 呼びになって、リップメイクもわざわざ落として卒業式の日にプレゼントとして渡したルージュに塗り替えて。服装や髪型は違えど、それはまるで自分のスタンドを使って昔の彼女と話しているような感覚だった。普段はフーゴにキレられたナランチャに助け舟を出したりと歳上らしいことをしているのに、このときだけは違う。一つ例を挙げると、紅茶を入れに行くというだけだというのに子供のように後ろをついてきたりだとか。そのせいか、こんなに高校とは違う乱暴な口調で彼女と会話しているにも関わらず、自分さえも昔に戻ったような気がして、悪くないと思えてしまうのだ。

「絶対に格好良いと思うんです。ほら、ええと、優等生が不良に惹かれるみたいな……ね?」
「お前は自分が優等生だと思ってんのかよ」
「昔は思ってましたし、事実でした」

呆れて頭を抱えるオレを目の前にしても、リディアはニコニコと笑みを浮かべている。最初の頃はこの笑顔が気味悪く感じて、思い切ってその意味を聞いたことがあった。そのときリディアは、「先輩と話すと昔に戻れたような気がして、嬉しいんです」 と笑っていた。あまりにも純粋すぎて拍子抜けしてしまったことは彼女には絶対に知られたくない。

「ほら、言ってください。あと二時間は誰も帰ってきませんよ。言ったらまた一緒に世間話でもしましょう」
「……ハァ」

ここはもう腹を括るしかない。ただ演技をすれば良いだけだ。諦めたという意味でのため息は見事に彼女に伝わったようで、ぱっと顔を明るくした彼女は、昔に戻ったような口調で言葉を紡いだ。

「ねえ先輩、これをつけた私と最後に写真を撮ってくれませんか?」

当時のように目元は赤く染まっていなかった。それでも自分には彼女が高校の制服を着ているように見えた。そして、自分も。

「もちろんだ」


こんなにも向日葵のように輝く笑顔を見られるんだったら、もっと早く承諾すれば良かったと素直に思った。




2018.12.19