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何する前にもご挨拶


「いやー、お前にこんな可愛い恋人できるってのはまあ想像はしてなくもなかったけど……幾ら何でも絵面がひどすぎやしねーか?」

開口一番に言い放たれたその台詞は二人の心を串刺しにするには少々弱かったが、それでもリディアの方は少し不安そうに髪を揺らした。確かに背が低い部類に充分該当するリディアと、チームの中でも一番背が高いアバッキオは言わずもがな身長差があったし、リディアがかなりの童顔なのも相まって二人が手を繋いで並んででもしていたら、それなりに怪しい光景に見えてもおかしくなかった。

「うーん……? そうですかねえ、」
「傍から見りゃ中学生にしか見えないお前が、アバッキオと並んでたらそりゃあ目立つぜ。本当に俺より歳上なのか?」
「ミスタさん、これでも私結構傷ついてるんですよ」

直ぐにリディアと打ち解けた様子のミスタに、余計なことを言うなとアバッキオは彼の肩を軽く殴った。たまたまリディアと自分とで出掛けていたときにミスタと出会っただけ。もちろん二人が付き合っていることはまだ報告していなかったのだから気になる気持ちも分かるには分かるが、リディア本人がいる前ですぐに声を掛けてくるのは如何なものだろうか、というのがアバッキオの心情である。

「そうだアバッキオ、今はアジトに俺達以外は揃ってるんだ。俺も今から戻るんだが、用事がないならこのことを報告した方がいいんじゃあねえか」
「言われなくても今日はそのつもりだったんだよ」

これを提案したときにはリディアは表面上了承の返事をくれたが、内心はそうではなかった。いつも相手にしていたチンピラとは訳が違うのだから、きっと怖かったのだろう。しかしアバッキオは彼女は自分のためなら嫌と思いながらも物事を実行してしまうことを知っていたから(実際に自分に会うためだけに警官にもなったのだし)、予め自分の仲間とリディアに少しでも信頼が生まれ、公認の仲になれば万が一彼女に何か会ったときに頼ることが出来るし、無駄なトラブルの予防にもなるという説明を事前にしていた。

「ミスタさんは思ったよりも話しやすくて面白いなあとは思ったんですけど……やっぱりなんだか怖い気がしてきました」
「まあ、見た目だけの怖さならアバッキオが一番だから平気───いてっ」
「てめーはもう少し黙れねえのか」

アバッキオがミスタの頬を軽く抓り、ふとリディアの方に視線を写すと、彼女は幸せそうにくすくすと小さく笑った。








それから時間の経たないうちに三人はアジトの前に到着した。すぐ目の前のドアをノックしてアバッキオがその扉を開け、ミスタが先に部屋へ入ると、リディアはいつかのようにアバッキオの背後に回り込み、不安そうに服を軽く握った。



「おー、おかえり……って、その子供は誰だよ? ま、まさか隠し子だったり?」

扉を開けた先の部屋にいたのはナランチャだった。彼はアバッキオの背中に隠れているリディアを見て、半ば焦ったように目を丸くした。アバッキオに軽く目で合図をされて、リディアは恐る恐る彼の背後から出てくる。

「リディア・ローゼです。ええと、アバッキオ……さんとお付き合いをさせていただいています……。あと、私は子供じゃあありません。今年で19歳になります」
「は? ……嘘だろ!?」

いつも先輩って呼んでたから、どう呼べば良いか分かんないなあ、なんてリディアがむず痒い気持ちになっているのは露知らず、ナランチャはむくむくと湧いてくる興奮を大声に出して発散させた。

「フーゴォォッ! ブチャラティッッ! アバッキオが恋人を連れてきたッ! しかも幼くてかわいー顔のヤツだよどうしよう!」

それは冗談抜きで鼓膜がおかしくなりそうな声量で、その部屋にいた三人は思わず耳を塞いだ。それは壁で隔たれた別の部屋にいても同じことだったようで、少々顔を歪めながらナランチャに呼ばれた二人は姿を現した。その二人のうちの片方を見た瞬間、リディアは あ、と声を漏らした。

「ブチャラティさん?」
「……リディア?」
「そ、そうです!」

自分から彼の名前を呼んでおいて、と思われるかもしれないが、リディアは一度や二度彼と話しただけではとても顔や名前なんて覚えてもらえないと思っていた。彼は街の人にとても信頼されているし、新しい人とのつながりを持つことも仕事柄かなり多いだろうから、自分との出会いなんてすぐ埋もれてしまうだろう、というのが彼女の見解だったからだ。これは意外な発見かもしれない。

「……驚きました。ナランチャのくだらない嘘だと思ってたら、まさか本当にアバッキオが女性を連れてくるなんて……。あ、僕はフーゴです。パンナコッタ・フーゴ。よろしくお願いします」
「あ、はい。リディア・ローゼです。こちらこそよろしくお願いします」

上半身裸の上に穴だらけの上着、そしてイチゴ柄のネクタイなんて随分奇抜すぎる服装だ。無意識にそのネクタイに描かれたイチゴを凝視しながらも、リディアはフーゴと握手を交わした。二人のそばにいたブチャラティは二人がお互いに手を離したタイミングを図って口を開いた。

「それにしてもこの前は災難だったな。事故の後、マスコミに追い回されたんだって? 街の奴らがお前を探す記者を何人も見たんだとさ」
「あはは……はい、まあ。それもあって警官はもう辞めたんですが、新しい職場も見つかったので……一件落着って感じですね」

さっきまで興奮気味だったナランチャもだんだん落ち着いてきたようで、あの新聞に載ってた奴か! と納得したように手を打った。当時の新聞をアバッキオと見ていたフーゴも彼女の名前を聞いてそれに気づいたのだった。

「なあ、ちょっと気になったんだけどよ、ブチャラティはまだしもアバッキオとも知り合いだったなんて、本当にお前はただの警官だったのか?」
「先輩とは最初高校で知り合ったので、私自身はごく普通の警官でしたよ」

高校!? とざわつく声の片隅で、アバッキオは頭を抱えてため息をついた。余計なことを言ってしまうのは案外ミスタよりリディアなのかもしれない。

「アバッキオとリディアが並んでるところを想像したら、少し……いやすごく絵面が悪い気がするぜ」
「それは結構的を得ていると思いますよナランチャ」

良い関係を作る、という点では心配しなくて良いだろうということは薄々予感はしていたが、これは逆の意味で心配することがありそうだ。アバッキオは大きく笑い声を上げたナランチャの頬をさっきのミスタと同じように強く引っ張った。

「ミスタさんも同じことを言っていましたが……そんなに怪しい構図に見えますかね?」
「なんというか……主に身長含め体格が正反対だからだと思います。貴方の顔が幼すぎるのも良くないですね」
「……むむ、」
「一応言っておくがその身長で年相応の顔に整形したらアンバランスで相当気色悪くなると思うぜ」

リディアの考えていたことは見事に当てられてしまったようで、彼女は誤魔化すようにへらりと笑った。整形するかどうかというレベルではなく、頭の中で軽く費用を見積もっていたなんてとても言えない。

その後リディアはさっき余計なことを言ったツケがまわってきたのか、主にミスタとナランチャから高校時代について壮絶な質問攻めをされながらも彼らと楽しそうに話をしていて、アバッキオとブチャラティはそれを微笑ましそうに見守っていた。気付けば時間が経っていて、時計をちらりと見たブチャラティが口を開いた。

「ほら、もうそこまでにしとけ。もう日が暮れそうだし、アバッキオも彼女を送っていくだろう」
「ああ」

帰るぞ、と一言言うと、リディアはすぐに席を立った。隣に並んだ彼女はやはり自分よりも格段に背が低い。

「今日はありがとうございました」
「おー、気ィ付けて帰れよ」

ばたんとドアが閉まる音を境に、アジトではアバッキオが今日帰ってくるかこないか、という賭けがなされていたとかなんとか。









「思ってたよりずっとずっと良い人そうで安心しました。ブチャラティさんは相変わらず親切だったし、ミスタさんは面白いし、フーゴさんは優しかったし、ナランチャくんは私と一番身長が近いから仲良くなれそうです」
「……そうか」

自分の仲間を褒められるのは悪い気はしない。(ただしフーゴについてはいつか豹変した姿を見ることになると思うが)このままだと自分の顔がその格好にはとても合わないような眩しい笑顔になってしまうような予感がして、片方の手で顔を隠し、もう片方で彼はリディアの頭をくしゃりと撫でた。



2018.12.11