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エピローグ


カチャカチャとプラスチックがぶつかる音が聞こえる。それは確かに自分のドレッサーの方から聞こえてくるもので、気になったリディアは洗っていた食器を拭いて様子を見に行くことにして、その部屋へ向かった。決して不法侵入者ではなく、今日はアバッキオを家に招いていたのだ。

「……えッ、ええッ! なんで勝手に捨ててるんですかあ! 高かったのに!」

開口一番リディアはそう驚いた。プラスチック音は、リディアの家に来ていたアバッキオがドレッサーの中の化粧品を次々と小さなダンボールへと詰め込んでいる音だったのだ。アバッキオはドレッサーから出てきた濃いブラウンのシングルアイシャドウを一つ手に取る。

「お前にこんな濃い色は似合わねえだろ」
「げ、限定で、どうしても欲しくなっちゃったんです……で、でも、仕事のときにはいつもそれを使ってたんですよ?」
「もう辞めただろう」
「うう、」

名残惜しそうにリディアは息を漏らした。これ以上勝手に捨てられてはならない。そう思った彼女はこの化粧品の整理に加わり、一つ一つ確認をした。

「これは?」
「駄目だな。濃すぎる」
「こっちは?」
「そんな色もう使わねえだろ」
「もう全部捨てられそうなんですけど!」
「まあ、これはいいだろう」
「え?」

目を逸らしながら最後に見せたそれはまたもやシングルのアイシャドウで、それは少しピンクのかかった薄い白色で、上品でいて華やかな輝きが角度を変えるたびに眩しく光っている。

「こんなに薄かったら、ちっとも目が大きく見えないじゃあないですか」
「元々でかいんだから、これくらいがお前には丁度良いさ」
「……、」

悔しそうに頬を膨らます彼女はその顔立ちも相まって完全に子供だ。そのとき、ドレッサーの中の化粧品の整理を全て終えたアバッキオは、今度は近くに置いていたリディアの化粧ポーチを開いた。初めに取り出したのはあの高校の卒業式に送ったあのルージュだった。

「これまだ使ってんのか」
「初めは勿体なくてあまり使ってなかったので……」
「こんなに古いヤツ使ってたら荒れるぞ」
「!、えッ、捨てるんですか!」

リディアはダンボールへと向かうそれを持つ手を思わず止めた。彼女にとっては思い出の詰まったものなのに、それを捨てるなんて有り得ないことだった。

「そんなに焦るんじゃあない、今度新しいのを買ってやる」
「だ、駄目です!」
「一緒にだ、一緒に新しいのを見に行く、と言ってもか」
「……うう、それは、その」

デートか、思い出の詰まった品を捨てられるか。最初混乱した割には、答えはすぐに出た。

「新しいの、先輩と見に行きたいです……!」

アバッキオはふ、と笑みを漏らす。ギプスが外れた腕の先の手のひらはぎゅっと握り締められていて、それが随分可愛らしく見えたのだった。

「今度は写真映えするのじゃあなくて、キスでもしたくなるような色にするか」

悪い笑みを浮かべながらリディアの方を見やると、予想通り彼女は顔を真っ赤に染めていた。




2018.12.7