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「#幼馴染」のBL小説を読む
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ビビリとバレンタイン
思わず 「はァ?」と聞き返してやりたくなった。でも私にはそれを実行する勇気が湧き出てくるはずもなく、「え?」という情けない声しか出てこなかった。

「だからさ、日本だとバレンティーノの日には『女が男に』チョコを送るんだろ? ここまで言えばもう分からないとか言えねえよなあ?」
「……作って、渡せってことですか?」
「そーそー!」

バレンタインのチョコレート。毎年本命を作るなんていう選択肢はなくて、(というかいなかった)友達とこっそり学校に持って行ってみんなで交換していたっけ。不味くて後で陰口を叩かれるのは嫌だから、必死に練習していたせいでそこらへんのスキルは無駄に上がっていた気がする。

「手作りでいいんですか? 普通にお店で買った方が……」
「バカ言えよ! 不味かったらそれでお前をまた揶揄えるし、美味かったらそれはそれで一石二鳥だろ?」

ああ、やっぱり私、この人苦手だ。

────────




「ミスタさん、約束のチョコレートです。不味かったら捨ててください、そして揶揄わないでください。どうぞ」

今にもチョコの入った箱を投げ渡したかったけど、それはなんとか押さえ込んで、ミスタさんにそれを手渡した。彼は「おお!」と感嘆の声を上げると、しゅるしゅるとラッピングのリボンと包装紙を解き、早速とばかりに中のチョコレートを一つ口に含んだ。

「……なかなか美味いじゃあねーか」
「よかったあ……」
「ほら、礼だよ」
「え? わ、うわっ」

悔しそうな表情など微塵も見せず、ミスタさんは至極満足そうにぺろりと唇に付いたチョコレートを舐めとった。そして私に投げ渡されたのは、なんだかオシャレなロゴがプリントされた高価そうな箱。中に入っているのはどうやら市販品のチョコレートのようだった。

「ここでは『男が女に』プレゼントをやるの知ってるだろ? チョコレートっつー決まりはねーけど、そこはお前に合わせといてやるよ」


チョコレートを受け取った私がまんまと呆然としているうちに、ミスタさんは軽く手を振って部屋を出ていった。


このときミスタさんは他のメンバーへチョコを自慢しに行っていたということは、私には知る由もないのだった。





「なあなあ見ろよこれ! あいつから貰ったんだぜ? すっげー美味いの! ナランチャ、どう思う?」
「んだよそれ!! お前あいつのこといっつも虐めてるくせに調子に乗るんじゃあねえ!」
「貴方はミスタに馬鹿にされてることに気づいた方が良いですよ」




少し短いですがバレンタインネタのつもりです。イタリアのバレンタインにはそこまで詳しくないのでゆるく考えていただけると嬉しいです。 2019.2.15