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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

神格化が非道い
今日もアジトには弱音が徘徊している、と言ってもいいくらいナマエのそれは酷いものだった。できるだけ本人も言わないように努力はしているらしかったが、言わないと気が済まないとばかりに 「絶対無理です」 だの 「死ぬ」 だの連呼している。ただそれは言っているだけで彼女はちゃんと任務を遂行して生きて帰ってくるので、ストレス発散の一種なのだとチームのメンバーは最近やっと理解することができていた。


「今日は弱音を聞かなくて済みそうですね」
「そうだな」

それと同時に分かったことがもう一つ。実は彼女の弱音が一気に減るタイミングがあった。


「ナマエ、本当に大丈夫か? 息が荒くなってるぞ」
「あっはい大丈夫です、ちょっとだけその、緊張してるだけですからッ!」

それはブチャラティが同じ空間にいるとき。チームの中で彼女と一番初めに会話をしたのが彼で、慣れないイタリアに全くと言って良いほど無知な彼女が持っていた怯えや恐怖を取り除いてくれた。その際ブチャラティの優しさに思い切り甘えてしまったナマエもまた優しい性格で、それ故の罪悪感からか彼女はブチャラティの前で弱音を吐いてしまうことを嫌がっていた。

ただナマエは冒頭でもある通りネガティブなことを言っていないとさらに不安感に襲われてしまう。そのせいでどうしても出てきてしまう仕草に、ブチャラティが気づかないわけがなかった。


「……無事に帰ってきてくれたら、きみが好きな和菓子を取り寄せよう。あまり気負わずに頑張ってこいよ」

ぽん、とブチャラティは低い位置にあるナマエの頭に掌を置いて、自分と同じ黒髪を少しだけ撫でる。さらさらとした手触りがなんとなく心地良く感じた。


「〜〜行ってきますッ」
「ああ」

ナマエは真っ赤に染まった顔を見せないようにしてテーブルに置いてあった資料をポケットに突っ込むと、足早にアジトを立ち去った。その光景に同じくアジトに居座っていたジョルノとミスタは目を丸くしてバタンと勢いよく音を立てて閉まったドアを見つめていた。









「いたッい、痛いです! ジョルノくんもっと優しくしてくださいしぬうう」
「死にませんから大丈夫ですよ……ナマエさんはどこへ行っていたんですか?」
「借金の取り立て。でもスタンド使いの奴が一人居たらしいんだとさ」


それから早数時間後。いつも通りナマエは生きて帰ってきた。が、今回は少しばかり怪我が酷い。なんでも取り立てに行ったグループの一人がスタンド使いだったらしい。しかし今回の任務は殺すことではなく借金を取り立てること。そこにナマエは女で新入りという要素が足されて、手こずる原因となってしまったようだった。おそらくスタンド使いだった彼は超能力を手に入れたと調子に乗っていただろうが、彼女本人は弱くとも能力自体は非常に強力なもの。最終的には恐怖が勝って金を払ったに違いない。

「ナマエ、ありがとう。情報が少なくてお前に怪我をさせてしまって申し訳ない。約束の和菓子は多めに取り寄せておくよ」
「ブ、ブチャラティさんは謝る必要なんてないですよ……私が手間取っちゃったのが悪いんです」
「そうだとしても、女は顔に傷をつくるもんじゃあないぜ」


ジョルノの治療が相当痛かったのか涙ぐんでいるナマエの目尻を軽く拭うと、そのまま頬に貼られていた絆創膏に優しく指を滑らせた。

「なっ、なにを……」
「ああすまない。痛かったか? 」
「そ、そういうんじゃありませんが……その、」
「ブチャラティ、こいつ日本人だし男慣れしてねーから、スキンシップは程々にした方がいいんだぜ」
「〜! いちいち言わないでくださいってばー!」


ナマエはけらけらと笑っていたミスタの方を睨むと、ブチャラティを見るのを避けるように 「髪の毛に血がついてて気持ち悪いのでシャワー浴びてきますッ」 と逃げるように部屋を出ていった。

「ジャッポーネは控えめだから揶揄いがいがあるよなァ〜」


にやついた笑顔でナマエが向かったシャワールームの方向を見やるミスタに、ジョルノとブチャラティは呆れたように苦笑いを浮かべた。




2019.2.9