
乙女座の男子
7/4追記:こちらはファンブック発売前に執筆したお話のため、矛盾している設定があります。
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「何の呼吸を使うの?」
一番苦手な質問だった。自分の使用する呼吸とそれを教えてくださった師範には感謝しきれないほど有難く思っているし、誇りに思っている。それでも周りの目はやはり気になるもの。いつもなら笑い話のように答えれば些かマシだったが、今回は相手が柱ということもありそんな失礼な態度で答えてはいけなかった。
「……恋の呼吸です」
だが、柱は柱でも恋柱の甘露寺さん。同じ流派なんだから、多分引かれないとは思う。
そんな自分の予想はやはり当たっていたようで、彼女がその綺麗な瞳を煌めかせた。
「私とおんなじ! 最近は流派が細かくて、恋の呼吸を使う人に出会うことがなかったの! しかも男の子!」
「はあ、」
正直こうも喜ばれると、いつもと違いすぎて逆に気持ちが冷めてしまう。
俺はどちらかと言えば幼い顔ではないし、不細工かはともかく、普通の歳相応の若くて男っぽい顔をしていると思う。それが祟ってか、合同任務の相手は初対面での自己紹介のときは絶対に目を白黒させる。多分意外性というのがかなりあるのだろう。
「かっこいい顔をしているのに、とってもかわいいわ」
「あはは……」
褒めてもらえているのかは疑わしいところだが、彼女の表情を見る限りは褒めてもらえた……のか?
「そこはええと、もっとこう、しならせる感じ!」
「……? こういうことでしょうか?」
「! そうそう、そうよ! 上手!」
そんなわけで呼吸が同じなら、ということで稽古をつけて貰えたものの、教え方が下手すぎてよく分からない。が、勘でやってみたら意外と合っているらしいので良しとしよう。柱の方から指導を受けられるなんてそうそう無いし、この機会は逃せない。
「すごいわすごいわ! 人に物を教えるのは私結構苦手だったんだけど、なまえくんには分かってもらえたみたいで嬉しい!」
「俺も甘露寺さんに教えて頂けてとても有難いです」
にこにこと嬉しそうに喜色満面の笑みを浮かべている甘露寺さんは、俺の手をぎゅっと握ってぶんぶん上下に降った。意外にもその手は見た目に似合わず筋肉質で、こんなに綺麗でもやはり鬼狩りで、柱なのだと改めて認識した。
「あなたとはまた絶対に会える気がするわ! 頑張ってね」
「はい、楽しみにしています」
「えへへ」
甘露寺さんがここを去る前にそう残したのだが、俺はその意味をまだ知らない。
この言葉の意味を知り、納得したのは後日鎹鴉から継子のお誘いの手紙が彼女から届けられたときだった。
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