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物言う花の嘘




炭治郎は人の嘘を見抜くことが堪能だった。彼が鼻が利くから、という理由もあるが、それ以前に仕草の変化を見れば鼻を使うまでも無かった。やけに瞬きをしたり、逆に目が乾くほどこちらと目を合わせてきたり。他にも嘘をついているときの仕草はたくさんある。下の弟妹たちのつく可愛らしい嘘から、大人がつく汚らしい嘘。今回のは前者だろう、と炭治郎は思った。

「俺の刀、本当に知らないのか?」
「知りません、存じません、どこかにお忘れになったのではありませんか?」

丁寧な敬語を使いこなすその娘は、見たところ禰豆子と同じ歳くらいに見える。彼女はどこか落ち着かない様子で、炭治郎とは目を合わせず、きょろきょろとあちらこちらに視線を動かしている。挙動不審、その言葉が似合っていた。駄目押しに彼女から漂う匂いを注意深く嗅ぐと、緊張と罪悪感が混ざり合った、嘘の匂いがした。

「台所か?」
「えっ?」
「んん、違うな、押し入れか?」
「!!」

清々しいほどに分かりやすい。さっきまでの匂いが一気に焦りの匂いに早変わりして、炭治郎は彼女が自分の刀を隠したのだろうと確信した。でもこれは没頭にも言ったように、炭治郎は彼女の嘘を可愛らしいと思った。つまり、これは彼を困らせるためではなく、あくまでも自分のためを思ってやったことなのだと炭治郎は理解していた。

「どの部屋の押し入れだ? 怒らないから、言ってくれ」
「……いやです嫌です! だって言ったら、炭治郎さん行っちゃうもん」

敬語が崩れたのを境に、彼女の香りは大きく揺らいで、その大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。その後ぎゅうと目を閉じたので、一気に溢れ出したそれはぽたりと床に落ちて、染み込んで行く寸前に外から入った日光に照らされてちらりと光った。

「うん、行くよ。行かなきゃならないから」
「なんで? なんで行っちゃうんですか?炭治郎さんみたいな優しい人がいっちゃうの、見たくないよ」

どこへ、とは聞けなかった。この子は生まれてからずっとこの藤の家で暮らしてきた。だから、自分の家を旅立ってすぐに亡くなった隊士を山ほど見てきたのだろう。
炭治郎はそんな彼女の背景を思い浮かべるとやるせなくて堪らなかったが、それでも彼には行かない、という選択肢は無い。

「……君に切り火をしてもらえたら嬉しいんだけどな」
「わたしがやったって意味なかった」
「手紙を送るよ。それにまたこの近くを通ったら、必ず顔を出しに行く」

だから、ごめんな。そう言って娘の涙を優しく拭った。二階の空き部屋、と震えた声で言った彼女の頭を、炭治郎はふわりと撫でた。




2019.12.30


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