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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






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SSまとめその3




2個目は元拍手お礼文の甘露寺さん夢(夢主死ネタです)




那田蜘妹山で、なぜか印象に残っていた人面蜘妹がいた。姿形は他の蜘蝶と同じで気持ち悪くって寒気がするのに、目がやけに結麗な蜘蝶。悲しそうな瞳でこちらを見つめていた。そういえば、もう完全に蜘妹にされちゃった人達も治療終わったって言ってたな。やっぱり後遺症は残っちゃったみたいだったけど。 会ってみたいな。そう密かに思っていた矢先のことだった。

「あの山で蜘蝶にされていた女の子です。善逸くんにずっとお礼が言いかったんですって」

目の前にいたのは、かんかん帽を深くかぶった女の子だった。目は影で見えない。耳たぶくらいまで伸びた赤ちゃんのみたいな細くて薄い髪のその女の子は大人しく車椅子に座っている。しのぶさんがこちらまで押してきてくれたのだろう。俺がちらりと視線を下に移すと、その子は恥ずかしそうにかんかん帽を深く被り直した。車椅子に乗っているのは、後遺症が残っているから。帽子を被っているのは、まだ髪が生えきっていないから。彼女の頭のかんかん帽は、着物に合わせているとどうもしっくり来なかった。正直、俺はこの子になんて言えぱいいのか分からなかった。恐怖のあまり酷い言葉を浴びせてしまったから。まずはそれを謝らなければと思ったのだ。

「え、えと、あのとき気持ち悪いとか、酷いこと言っちゃってごめん!」

口にした後で後悔した。何言ってんだ俺!もっと他に言うことあるでしょ!
助けを求めるようにしのぶさんの方を見たけど、にこにこと笑みを向けられるだけ。焦る俺に、目の前の女の子はんん、と咳払いをして、

「だ、だい、大丈夫」

震えた唇で、その子は必死に言葉を紡ぐ。毒針に変えられていた舌のせいで、話すこともままならなくなっているみたいだった。

「た、たす、助けてくれて、ありが、とう」

彼女はふるふると庫れが治っていないはずの両手を俺へと伸ばす。俺は迷わずその手を握っていた。女の子は驚いて顔を上げる。締麗な瞳だった。あのときの。

「どういたしまして!! その、これから色々大変だと思うけど、頑張って!!」

もう蜘妹みたいに気持ち悪くなんかない、柔らかくて締麗な女の子の手を握って、俺はまるで今から言い逃げするかのように言い放った。彼女はまた何か言おうとしたけれど、他にもうひとつ言いたいことがあった俺は、それを遮ってまた叫んだ。

「いきなりこんなの気色悪いかもしんないけど、俺、もっと君とお喋りしたい! できるならお出掛けだってしたい! 君が前みたいに歩いたり話したりできるように、俺に手伝わせてほしい!」

顔が熱かった。だってそうするしかないじゃんか。“結婚してー!”っていつもみたいに言うよりはマシだろ?って、ほとんどやけくそだった。 恐る恐る彼女を見ると、その子はへらりと力無く、でも嬉しそうに目を細めて笑った。しのぶさんは、その傍で俺たちを微笑ましそうに見つめていた。







「ぎゃっ」


今まで自分をさんざん苦しめてくれた鬼があっさりと絶命した音が聞こえて、私は木にもたれながらもなんとか足に込めていた力を抜くと、ずるずると崩れ落ちた。 その音を聞いて駆け寄ってきたのが、甘露寺さまだった。

「大丈夫!? しっかりして!」
「……かんろじさま」

きれいな髪の色。私みたいな鬼殺隊の下っ端なんかに泣かなくても良いんですよ。 そうやって私の顔を覗き込む整った顔から零れる涙を拭おっとしたけれど、腕に力が入らなくて、それは叶わなかった。 あなたにそんな顔をさせるつもりはなかったのに。死ぬつもりなんてなかったのに。……でも。

「しっかりして! 呼吸で止血をするの!」
「……もう、だめなんです。だから」

せめて、貴方の腕の中で死なせてくれませんか。


女の私が同じ女性にこんなことを言ってしまっなんてなんだか自分でも気持ちが悪いと思った。でもどうしても人の温もりを感じたかった。
最終的にはただの肉の塊、つまり死体を抱きしめることになってしまうと言うのに、甘露寺さまは嫌な顔一つせず、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。

「貴方のぶんまで、私生きるから。貴方の思いは私が持っていくからね。安心して、休んでね」

ありがとうございます。でもごめんなさい。これから死体になるくせに貴方の羽織を涙で濡らしてしまうことをどうかゆるして。甘露寺さま、ありがとう。






2019.10.27

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