それは偽物か本物か
ひゅ、と手に込めた力が抜けるのを感じた。目の前にいた人の姿が自分の師匠であったことが理由だった。
「たんじろう、」
これは鬼、これは鬼。そう言い聞かせてもじわりと滲む手汗で刀が零れ落ちそうだ。御丁寧に再現されたお面のせいで目の模様は見えないから正確には分からないが、きっとこの匂いは、十二鬼月ほどではないけども、ありえないほど人を喰っている。
“記憶が読めるのか?”
鬼は手の一部を鎌のような刃物に変えると、手加減なしに襲ってくる。攻撃を捌くのが精一杯。なんとか刃物に変化した方の腕を切り落とした。
「はぁ、はぁ……」
「せいさつよだつのけん、を、にぎ、ら、せ」
鬼は少し距離取ると、ぐにゃぐにゃと皮膚を変化させ背格好が変わる。あっという間にそこには自分と妹の恩人。外にはねた髪の癖すらそっくりで、呂律の回っていない口調を除けば誰にも気づかれないだろう。目には予想した通り数字は刻まれていなかった。服も変わったところをみる限り、体の一部なのか。完全に変化されると情けないことに、刀を握ることができない。
攻撃を避ければ見覚えのある瞳が睨みつけてくる。さっきと違ってそれが恐ろしくて、あっという間に傷だらけになった。
やっと覚悟を決めて無理矢理刀を握れたと思えば、悪あがきだとでも言うようにまた姿が変わる。
しかし、それは弱点を見せたも同じことだった。俺はこの瞬間を待っていた。
“今だ!”
姿が変わる速度が早い。が、今しか好機はない。
背が小さくなって、口あたりの皮膚が若竹色に変色した時、俺は目を瞑って頸を切った。
「ありがとうね」
はっきりと聞こえたのは、あまりにも懐かしかった声。切った首のその上を見ると、見覚えのあるあの人の頭が転がっていた。
かなり暗めだし思ったより短くなってしまいました……。裏話等は裏話まとめページに書いてありますので良ければ見てみてください。
2018.10.10
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