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腹も肺も真っ黒なんだ




※夢主が関西弁

※煙草を吸っている描写がありますが喫煙を推奨する意図はありません







嫌な匂いがした。薬なんかではなく、毒の匂いだ。毒と薬は紙一重だとも言うらしいが、それは薬にもなり得ない紛れもない毒物だった。縁側の方から香ってきたので、俺は鼻を塞ぎながらそこへ向かった。するとなんとそこにはなまえさんの背中があって、俺は思わず目を見開いた。

「あれ? 炭治郎くん? どうしたん?」
「……何をされてらっしゃるのですか?」
「煙草」

なまえさんは俺の方を振り返ることすらしなかった。柱だから、気配だけで誰なのかとかも全て分かるんですか。一度そう問うてみたら、なまえさんはいつも伏せがちな目をまんまるに見開いてから、「炭治郎くんはな、夜は足音がみんなより静かやから分かりやすいねん」 と可笑しそうに笑っていた。確かに、善逸や伊之助は時間問わずもっとばたばたと騒がしい足音だから、比較的俺の足音は小さいかもしれない。そうしなければ、俺達より早く就寝している患者さんたちに迷惑がかかってしまうから。でもここにはしのぶさんやカナヲ、アオイさんをはじめとした看護婦さんたちも沢山いるのだし、それはやっぱり無理がないか、と思ったのは内緒である。

「なまえさん、煙草は肺に悪いんですよ。ここには病人の方もいますし」
「え、中にも煙入ってたん」
「はい」
「ごめんな」
「貴方が煙草をやめてくれたら許します」

ええ〜? となまえさんは子供が駄々をこねるときのような声を出し、渋々そばに置いてあった灰皿に煙草を擦り付けた。

「どうしてなまえさんはわざわざ毒を吸ってるんですか?」
「めっちゃ直球やな」

その声はいつものなまえさんにしては冷たい声色だったが、怒っていないというのは分かった。

「はよ死にたいねん」

なまえさんは懐からまた1本の煙草とマッチ箱を取り出すと、カシュッと慣れた手つきで煙草の先に火をつけ、それを唇に挟んだ。その姿がやけに扇情的で、喫煙なんてやらないほうが絶対に良いことのはずなのに、何故だか俺は止めるように言うどころかその光景から目を離せなかった。

「……ど、どういうことですか」
「鬼に喰われて死ぬくらいやったら早死でもいいから毒で死んだ方がマシってこと」
「お、俺はなまえさんに死んで欲しくないです」
「そりゃ炭治郎くんやったらそう言うやろな」

煙草を口から離すと、なまえさんはどこか諦めたようにふっと目を細めて笑った。でもなまえさんから何故か意地悪な匂いがして、俺は少し身構えた。

「……わぷっ」

ふうぅ、となまえさんの口から吐き出された煙は、一直線に顔に覆いかぶさり、俺は思わず目を瞑った。苦い香りかとにかく嫌で、手で雑に煙を払いのけて目を開けると、なまえさんはしてやったりというようにによによと笑っていた。

「何するんですか!」
「炭治郎くんは面白いなあ」

にこにことした屈託のないその笑顔は、まるで俺を道ずれにしようとしているみたいで。もしかしたら、今この人が細めているその瞳は笑っていないのかもしれない。なんとなく怖くなって、なまえさんがまた目を開ききる前に俺は目を逸らしてしまった。







2019.10.21

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