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TwiのSS二本詰め其の二




前者は炭治郎、後者は善逸夢です。





【墓穴を掘る子】


俺、匂いで人が何を考えてるか大体分かるんだ。そう炭治郎が言った瞬間、胸の辺りの温度がひゅ、と急降下するのを感じた。しかし反対に首から上の温度は血が沸騰したのかと言うほど熱くなる。
息が詰まった末に、私はたった一言だけを発した。

「ひどい!」
「えっ」
「ひどいひどいひどい! じゃあ炭治郎は最初から私の気持ちを知ってたっていうの!?」

私は炭治郎のことが好きだった。だからこんな形でこの気持ちを知られてしまったと思ったら、悲しみよりも先に苛立ちが頭の中を占めていた。それをさらに恥ずかしさが上回り、目頭が熱くなる。

「この女たらし! 炭治郎のこと好きだったけど、もう嫌い! 大嫌い!」
「ちょ、ちょっと落ち着け、」
「落ち着けるもんですか!」
「なまえは香水を付けてるから匂いは分からないんだよ!」

私の声を遮るように炭治郎は言った。ふと見えた彼の頬は熟れた林檎のように赤かった。

「こう、すい……」

そうだ、私、炭治郎といる時はいつも香水をつけてた。私が炭治郎に出会う前、初めてのお給料で購入したもの。遠い外国から取り寄せたって、お店のお姉さんが言ってた。
それを思い出した瞬間、顔の熱は手足の先まで侵食していき、肺は呼吸を忘れて硬直していた。思わず顔を手で覆う私を炭治郎は真っ赤な顔で見つめている。この状況から脱出する術なんて、私は知らない。






【意気地無し】



かぁわいい。彼女を表す言葉はこの言葉に尽きると俺は思う。もう少し深く言うと、「か」と「わ」の間の小さい「ぁ」、これが重要。いつも女の子に対しては余裕のない俺を余裕にさせてしまうほどの優しい子。悪く言えば気弱な子。物凄く贔屓目で見れば「全てが愛おしい子」。かわいい、どうしてそんなにかわいいの! そんな甘い甘い言葉であの子の鼓膜を突き破りたい、最後に聞く音はどうか俺の声にしてほしい。それくらいに恋焦がれている。

「……善逸くん、ずっとこっち見てどうしたの?」
「え? な、なんでもないよ」

俺がそう言うと、彼女は気まずそうに目を逸らす。
……ほら、そこで心配する音を出しちゃうのが駄目なんだ。そんなんだから人に騙されやすくて、俺みたいな奴にも余裕を持たせてしまうんだよ。

「……ずるいなあ」
「え?」
「善逸くんにだけ私の気持ちが分かって、私には善逸くんの気持ちが分からない。私だって貴方が普段どんな音を聞いてるのか知りたいのに」

そう、まさにこういうときだ。“かぁわいい”って気持ちになるのは。
俺は隣同士で並んで座っていただけの体勢から彼女との距離を詰め、耳打ちをするように彼女の耳に顔を近づけた。今部屋には俺と彼女以外誰もいない。驚きで思わず俺との距離を取ろうとする彼女の腰を腕で抱いて無理矢理固定すると、彼女と耳と俺の唇は一寸もないのではないかという距離まで近づいていた。君にも俺の音が聞こえている、なんて状況、想像もしたくない。だって君に心配されただけで病気かってくらい喜んでいることを知られたら、もう生きていけないよ。でもこれはただの仮定の話だからね。これが現実になることはない。

「ねえ、きこえる? 俺の呼吸の音」
「え、あ、あの、ちょっ、と……!」

その台詞の途中、ふと彼女の耳に俺の唇が触れる。びく、と彼女はまた体を震わせて、またもう一度そこがとんと触れ合う。耳、真っ赤だ。

「俺はこんな近い距離じゃなくても、このくらいの音量で、君の呼吸音が聞こえてるの」
「ぜんいつく、」
「だから君が喜んでるのも悲しんでるのも手に取るように分かる。今、すっごいどきどきしてるよね。心臓の音すごいよ」

そう言って、俺は彼女の胸の辺りに手を伸ばす。もう少し、あともう少し。でもごわごわとした隊服の分厚い生地の感触を指先が感じ取った瞬間、俺はすぐにそこから手を引いた。

「炭治郎の足音だ。こっちに来る」
「……え?」
「もしかして期待してくれてた? でもごめんね、もうあんまり俺をからかわないで」

図星とでも言うように、その鼓動は一回どくんと脈打つと、みるみるうちに音は落ち込んでいった。やっぱり音は正直だ。
襖を開けた先には、誰もいない。炭治郎や伊之助はもちろん、蚊が飛ぶ音さえもしなかった。








2019.8.15
前者は炭治郎中編の元のお話だったりする。


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