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愛想の良いチョコレート




なまえから手渡された箱の中には、焦げ茶色のつやつやとした何かが六つほど。どんなものなのかも分からずに、取り敢えず触ってみた。なかなか固い。匂いを嗅いでみる。初めて嗅ぐ香りだが、嫌なにおいではない。そんな俺の様子を見て、なまえはとても呆れたような顔をして、深い溜息をついた。

「毒じゃないんですから、そんな犬みたいなことしないでください。れっきとした外国のお菓子なんです」
「聞いたことないな」
「冨岡さんは鬼と鮭大根以外のことに関してはすっごく無知ですもの。これは “チョコレート”って言うんですよ」

ちょこれーと。チョコレート。やっぱり耳にしたことはなくて、なまえの言っていることは間違いではなく、本当に俺は世間知らずなのかもしれないと少しだけ思った。こいつは俺と違って外国のことを知るのが好きで物知りだから、今回もそれに影響しているのだろう。

「……ところで、これは今食べても良いのか」
「そうじゃなきゃ初めからあげてないんですけど」

言わなきゃ分からないんですか? とでも言うように彼女は苛ついたような口調で言うと、ふんと鼻を鳴らした。そして俺は恐る恐るそれを口に含んだ。やはり少し固くて、ぱきんと咀嚼によってチョコレートが砕ける音がなんとも心地良い。さっき嗅いだあの良い香りがより香ばしく鼻を擽った。

「……美味いな」
「でしょでしょ! 炭治郎くん達にあげたら苦そうな顔されちゃったんですけどね、私はこの香りが大好きなんです。あっ、知ってました? これお砂糖もたくさん入ってて……おかげですごく高かったんです」

自分と同じくチョコレートを 「好き」 と言ってくれたのが余程嬉しかったのだろう。さっきの不満そうな顔とは裏腹に、次々と話し始めるなまえはとても楽しそうに見えた。その時俺は自分の口角が上がっていたことに全く気づかなかった。

「あっ、今冨岡さん笑ったでしょ? 」
「……」


そのままの明るい口調でなまえは言う。唐突なその言葉に俺はすぐ返答することが出来なかった。なまえの言う通りだったからだ。具体的に自分はどんな顔をしていたのだろうか。さっきの自分の頬の緩み具合から見て、きっとひどく穏やかな表情をしていた。でもそれは何故だろう。きっとチョコレートが美味かったからとかではないはずだ。

「……」
「もう、黙ってないで何か言ってください」






「……お前が楽しそうに、俺と話をしてくれるから、だな」

そのときのなまえの鳩が豆鉄砲を喰らったような顔も、そのあとの照れたような表情も、一生忘れられそうになかった。



なけなしのバレンタインネタ。時代背景とか全く考えてないのでそのへんはどうかご容赦ください……
2019.2.15




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