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車椅子の持ち上げ方




※過去ッキオです。もはや誰だお前
※なのでアバッキオが普通に愛想いい性格です。
※一応これと同じ夢主です

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あれは父が亡くなる何年か前のこの季節のことだった。あの時わたしは早めの反抗期と言うやつで、買い物に来て知り合いと長話をし始めた母に嫌気がさし、一人でその場を去った。ゆっくりではあるが自分で車椅子を動くことはできるっちゃできるし、なんでも母がいないと何も出来ないのが嫌でたまらなかった。このときの心残りといえば、これがバレた後の父の激怒した顔、くらいだったと思う。でもたまにはこんな日もいいだろうということと、思春期特有の親へと苛立ちを少しでも抑えようと少し散歩をするつもりだったのに、自分にとってはどうしようもないことに遭遇してしまうなんて思いもしなかったのだ。

「……階段……」

そう、階段。普通の人にはなんてことなくても、私にとっては大問題だった。もしこれが多少の段差だったならギリギリ乗り越えられなくもないが、ここからは少しでも進めばわたしは車椅子から振り落とされ、そして車椅子とともにここから転げ落ちてしまうだろう。これが現実なるとすると、もしかしたら打ちどころが悪ければ、なんてことも有り得るかもしれない。今、携帯は私の手の届かないハンドルに掛けられた巾着袋の中だし……、



「階段を降りたいんですか?」
「うわっ」
「いきなり声をかけてすみません」

振り返るとそこにはかっちりとした、格好良い制服を見事に着こなした体格の良い警官の男性がいた。ガタイも良くて顔もちょっぴり怖いけど、なんとなく優しそうな人だった。

「え、で、でもわたし重いし……」
「警官なんだからこのくらい平気だ。ほら、しっかり捕まっててください」
「ひゃっ」

警官のお兄さんは私が座っているシートの裏をぐっと掴み、軽々と持ち上げた。いつも座っているから、普段より何段階も上がった視界の景色はとても新鮮だ。そして思ったより怖くはなくて、この人一人だけで支えているのにも関わらず安定感があった。

「怖かったら言ってください」
「は、はい」

なんだか、お姫様抱っこされてるみたいだ。この人との視線の高さの差がとくにそう思わせた。小さい頃もこうしてお父さんに抱っこしてもらってたなあ。……やっぱり、少し悪いことをしてしまったかも。あとで謝りにいかないとなあ。

そんなふうに父の怒りをどう回避するか考えているうちに、階段はすぐ最後の段まで差し掛かっていて、警官のお兄さんはゆっくり丁寧にわたしを降ろした。また目線が下がって、景色はいつも通りだ。

「あ、ありがとうございます。すごく助かりました」
「当たり前のことをしたまでです。……そういえば、どうしてあんたは親もなしにこんなところを散歩してたんだ?」

「……、」
「……」


その後父の激怒までは行かなくとも、かなりの説教をされたのは言うまでもなかったのだった。








「……なつかしいなあ」

お父さんの写真を見ながらふとそう呟いた。思えばあんな親切な警察官の人が来てくれたのは本当に幸運だった。もしあの人が私を見つけてくれなければ、誘拐犯にでも攫われて売られてしまっていたかもしれない。あの警察官の人は今も街の人たちを守っているのかな。あの人はどんな見た目だっただろう。……ああ、そうだ、確か紫色のルージュを塗っていたっけ。ブチャラティさんの仲間の一人が似たようなルージュを塗っていたような気がする。無愛想だったあの彼の名前は、なんて言ったっけな。



2019.3.9

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