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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






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Look at me!





ここの店は気が利くから好きなんだよなあ、とミスタが言っていた覚えがあった。なんでも店員はみなミスタのことを覚えているらしく、例えば後で何人かと合流する、と言って四人でここへ来たとしても、ケーキだってティーカップだって五つにして持ってきてくれるらしい。多分まず四人でリストランテへ来ることが間違っているし、店側もギャングという抵抗できない相手とはいえ何回も奇声を発せられるのはとても困ったものなのだろう。ただミスタのように特別な措置をするべきだった人間は他にもいた。それもきっと、店側の配慮だけでは防げないものが。

「何回言わせれば分かるんだーッ!」

ガシャン、とかパリン、とか陶器が割れる音をこれでもかというほど店全体に響かせたのは、間違いなく俺とフーゴだった。






「本当に何回もすみません。店の備品は弁償しますから……おいナランチャ、弁償代はお前の給料から引かせてもらうからな」
「はァ? なんでだよ」
「お前がいつまで経っても七の段を覚えないからだよ!」

今にも本日二度目の大惨事が起きそうな雰囲気に、店員のなまえには汗を垂らしながら笑みを造ることしかできないようだった。この店はこいつの母親が営んでいるらしく、娘であるなまえは時々ここを手伝っているのだ。なまえがいる日の店はなんとなく居心地が良いから、つい集中できる気がしてフーゴといつもここへ来てしまう。しかし来店する度に俺達は騒ぎを起こしてしまうのだ。でも彼女はこうして苦笑いを浮かべながらも割れた陶器の破片を片付けてくれる。こちらはギャングだし、チームのリーダーであるブチャラティには世話になっているだろうから、店側は文句を言おうにも言えないんだろうけど。

「片付けはこちらでやりますから……ええと、ナランチャさんはその頬の傷をなんとかしましょう。絆創膏を持ってきますから」
「お、ありがと!」

なまえはフーゴと同じ俺より年下(見た目から考えると)で、俺にちゃんと敬語を使ってくれるし、彼女のことは嫌いではない。オレンジの輪切りを催した髪飾りも俺は好きだった。

「彼女に甘えてんじゃあないぞナランチャ! そんな傷いつも平気そうにしてるだろ」
「違ぇよ! フーゴが思いっきりフォークをぶっ刺してくるからいつもより傷が深いんだよ」
「あ、あの、フーゴさん、私は大丈夫ですから! ええと、大きいサイズでいいですかね」

素早く店の奥から救急箱を持ってきていたなまえは、その中から普通のサイズよりも少し大きい絆創膏を取り出した。

「じゃあ、横向いてください」
「はいよー」
「ったくもう……」

絆創膏のシール部分を丁寧に剥がしていくなまえに見えないように、俺は呆れ返るフーゴににやりと笑みを向けてやった。フーゴはぎゅっと拳を握り締めるだけで、俺のすぐ側になまえがいるからか手は出して来なかった。

「痛かったらすみません」
「別にそれくらい平気だって」

逆にくすぐったく思えてしまうくらい丁寧になまえは絆創膏の隅を俺の頬の傷口あたりに押し付けていく。なんの下心のない真剣で少し怯えたようなな眼差しがなんとなくむず痒くなって、「もうちょっと早くしてくれよ」 と急かすと、彼女は申し訳なさそうな顔をして絆創膏の上から俺の頬を撫でた。

「膿んだらたいへんなので、何回か張り替えてくださいね」
「じゃあ、明日またここに来るから張り替えてよ」
「はいはい、冗談はそれくらいにしてください。ブチャラティが待ってますから早く行きますよ。なまえさん、壊してしまった備品代です」
「あ、ありがとうございます……」


フーゴはなまえが手に持っていたシールをかすめ取り、薄い札束を持たせた。そのまま奪い取ったそれを傍にあったダストボックスへ投げ捨てると、その手で俺の手首を強く引っ張った。

こりゃあアジトに着いた瞬間殴られるな、と予感しながらも、苦笑いをするなまえに向かって笑って手を振った。




2019.1.20

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