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打たれれば響いちゃう




これの続き

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「そういえば、貴方ブチャラティのことはカワイイって言いませんよね」
「……」

なまえは吹き出しそうになった紅茶を間一髪のところで飲みこんだ。その息を呑む様子は、まるで図星だとでも言っているようである。当然のようにそれに勘づいたジョルノは意外そうに目を丸くした後、興味が湧いたのか向かいに座るなまえに向かって少し前のめりに上半身を傾けた。

「アバッキオはまあ分かります。フーゴも、そういうことを言ったら間違いなくキレるでしょうし。ちょっと意外です。何があったんですか?」
「いやあ? だって上司だし……」
「それならミスタだってそうだ。この前何かしたでしょう。かなり撃沈した顔してましたよ」
「……」
「言い訳は止めてくれたみたいですね」
「……“詳しく聞かせろ”ってカオしてる」
「勿論です。僕にさえも“カワイイ”なんて言う貴方を揶揄う格好の材料ができそうなんですからね」

そう言うとなまえは悔しそうにうぐ、と声を漏らし、やがて机に突っ伏した。大人しくしていればこの人は可愛らしい外見をしているのに、とジョルノはその様子をまじまじと眺めながら思う。

「言ったことはあるの。かなり前だけど」
「あるんですか」
「あるんだよあるんだけど……はぁ、」

これはもう話すしかないかとなまえは大きくため息をつくと、ぽつりぽつりと言いたくもないあの出来事の一部始終を口にし始めた。







それはなんでもないある日のことだった。なまえはブチャラティと一緒に買出しへ出かけていた。少し変わっていたこといえば、たくさんの老婦人達に彼が囲まれてしまった、というだけ。その光景自体は何度も見たことがあるものだったし、彼女らに向かって困ったように笑うブチャラティを見る度に、なまえはナランチャに言ったように、 「かわいいなあ」 とひとりそう思うのだ。少し寂しい気もするけれど。

「すまないな」

と、数十分ほどしてやっと解放してもらえたブチャラティはなまえに言った。その困ったように笑った表情をするときの眉の絶妙な角度だとか、こちらへ一歩を踏み出すたびに揺れるそのさらっさらの髪だとか。とくに相談事を断れないその性格が余計にそう感じてしまって、なまえはその言葉を思わず口にしていた。

「上司に言う言葉じゃあないんですが……なんか、ブチャラティさんってカワイイ、ですね」



言ってしまった、と思った。でもなまえは発言を撤回しない。もう遅いとも分かっているし、この言葉に対してブチャラティがどう答えるのかも気になったからだった。肝心の彼は目を丸くする。そして少し黙ったかと思うとくすりと笑みを零した。

「そういう言葉はなまえみたいな女性に使うべきなんじゃあないか?」
「あはは、お上手ですねえ」

流石に照れたりはしてくれないか。大方このような返しをしてくるのは分かっていたが、やっぱりこの人はこういうことに関しては隙がない。しかし、予想が外れてしまったのはこの後だった。

「嘘じゃあないぜ。例えばさっき俺が婆さんと話してたときのちょっぴり寂しそうな顔だとか」
「えっ」
「それで俺が戻ってきたときの嬉しそうな顔だとか」
「え、ええ?」

「そう、その今の顔も、『カワイイ』と思うぜ。と言うより、『愛らしい』の方が近いかな」


そして最後のトドメを打つように、ブチャラティは「あまりナランチャをからかってやるなよ」 と言い残すと、なまえが手に持っていたワインの入った紙袋をするりと自分の手に持ち直し先になまえを置いてアジトへの道を歩き始めてしまった。

「えっあっ、ちょ、ちょっと待ってくださいよう、」

赤くなった頬のあたりを片手で抑えながら小走りでこちらへ向かってくるなまえを見ると、ブチャラティは微笑ましそうに笑って立ち止まる。当時の言い表しようのない照れくささに、そのときなまえはこの上司には絶対に 「カワイイ」 なんて言わないでおこう、とその身に誓ったのである。




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「まあ、こんなカンジ? もう満足した? したよね?」
「はい、とても。僕もそんな返しをすれば良かった。……では、早速ナランチャとミスタにも伝えてあげましょうか」
「ええッ!? やめてよねえホントにやめて!」


お願いしますう、と縋るようになまえは携帯を取ろうとしたジョルノの手を抑えた。

「冗談ですよ。でももう僕には『カワイイ』なんて言わないでくださいね?」

意地悪そうにジョルノが言うと、なまえはこくこくと頷く。その仕草ににこりと笑みを見せたジョルノに、なまえは喉から出かかった言葉をぐっと抑えたのだった。


2019.3.9

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