×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -






icon

打てば響く




アジトのソファで昼寝していたとき、少し擽ったいような感覚が自分の体を刺激して目が覚めた。それはもう慣れたもので、俺は溜息をつきながらテーブルの周りに設置されている椅子に一人座るあいつに声を掛けた。

「お前、またやってんのかよ……」
「だってかわいいんだもん」

つんつんと指で小突いているそれは、俺のスタンドの中で一番泣き虫なNo.5。俺の感覚はこいつとちゃんと繋がっているというのに、それにも関わらずなまえはこうしてNo.5を苛めて楽しんでいる。こいつは特に彼女に気に入られていて、表向きには他の奴らと贔屓されていないものの、裏ではこうして度々遊ばれているのだ。

「ヤメテクレヨー!」
「ふへへ、ごめんねえ」

にやにやと心底楽しそうななまえは悪い笑顔でまたNo.5を小突いた。むっと口角を下げたNo.5は小さな力で彼女の指を掴もうとするものの、彼女には何も効果がなく、むしろもっと喜ばせてしまったようだ。そうこうじゃれあっているうちに、近くで騒いでいた他の奴らもぞろぞろとなまえに集まってくる。

「オイ! No.5バッカリ贔屓シテンジャネエヨ!」
「ごめんね、わたしNo.3のことも大好きだから、そんなに嫉妬しないでよ」
「嫉妬ナンテシテネエ!」
「あはは、そっかあ、」

随分楽しそうだ。本体は俺だってのに。入団したころはやけに俺にくっついてくるから、「きっとこいつ俺に気があるんだな」 なんてことを思い込んで自信満々だったなあ。まさかピストルズ目当てだったなんて思いもしなかった。女にモテなかった試しはなかったから、それに気づいたときは結構な放心状態に陥っていたような気がする。

つまり彼女はどこか抜けていて、それは特におかしなものを 「カワイイ」 と表現するところ。例えばピストルズだって小さいだけで“カワイイ”には当てはまらないと思うのだ。声だって甲高いしかわいいなんて考えられない。少なくとも俺は、だけど。それにナランチャまでに彼女はその言葉を向けたことがある。年下、しかも女に“カワイイ”なんて言われてあいつが怒らないはずはない。……が、その怒っている様子さえも“カワイイ”なんて言われていたのはきっとあいつは知らないだろう。それを聞いていたブチャラティもさすがに苦笑いを浮かべていたのを覚えている。ただそう感じた対象にはでろっでろに甘やかすから、ピストルズは満更でもないらしい。

「お前なあ、そんな甘やかして俺の言うことを聞かなくなったらどうしてくれんだよ」
「ミスタは本体なんだからそんなことあるわけないでしょ。もしそんなことがあっても私がピストルズに“ミスタの言うことを聞いてあげて”ってお願いすればいいじゃない」
「お前なあー、」

ピストルズにはああなのに俺にはそんな素っ気ない態度かよ。

俺がそう言うと、なまえは一瞬目を見開いて、少し顔を俯けた。咳払いをしてから顔をまた上げる。とても申し訳なさそうな表情だ。……ただし、とても不自然。演技だ。

「うーん……じゃ、お詫びに一緒にジェラートでも食べに行こうよ」
「てめーはただピストルズと過ごしたいだけだろ」
「えへ、バレた?」

なまえは舌を出して笑うと、嬉しそうに騒ぐピストルズの頭を撫でた。それと同時に俺の頭も少しむず痒くなった。
そのせいかふと屁理屈が頭に浮かんで、これならこいつを黙らせることが出来るかもしれない、と口を開いた。

「ちょっと思ったんだけどよ、俺とピストルズの感覚は繋がってんだから、お前がこいつらを撫でたり可愛がったりしたら、俺も可愛がってるってことになるんじゃあねえか?」

けっこう無理矢理だが、ピストルズと違って俺はなまえにそこまで気に入られてるって訳じゃあないはずだし、これで諦めてくれれば万々歳だ。そう思ったのだが、やっぱりこいつはどこか変わってる。つまり結局のところ、諦めてくれるなんて以ての外で、さらに状況は悪化してしまうことをこのときの俺は知らなかったのだ。次の彼女の発言ですべてを知ったのである。


「……なまえは俺に気があるんだろうって貴方が勘違いしてたことは知ってるし、勘違いしてたことに気づいたとき、ちょっと落ち込んでたことも知ってる」
「は?」
「だから私ね、ミスタのことも“カワイイ”って思ってるの! こーゆーいちいち反応してくれるところが! だから最初から私はピストルズをカワイイって言ってるときは、ミスタにもカワイイって言ってる認識でいたんだけど……ふふ」


きらきらと目を輝かせた表情で、まるで憧れのスターと握手するようかのように、なまえは俺の手をぎゅっと握りしめた。俺はといえば、ただただ呆然とするしかなかった。少なくとも口喧嘩だったりとかいう言葉を武器にする類では俺も、ついでにナランチャもきっとこいつには勝てないのだろうと悟ったのだった。



2018.1.13

back