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優しい指の温かさ




小話まとめの不死川夢 「それならあなたが貰ってよ」の続きというか過去話。これだけでも読めます。

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じんじんと痛む額と頬に、私は顔を歪ませた。鬼の血鬼術のせいでまさかこんなことになるなんて。しのぶさんが薬をくれたからひどい跡にはならないと思うが、それはひどく目立つものになるだろう。でもまあ、師範の不死川さんよりは幾分マシだし、大丈夫ということにしておこう。

「不死川さん、ただ今帰りました」
「おう、遅かったな……ってなんだその怪我は? 血鬼術でやられたのかァ?」
「はい、でも薬を頂いたので」
「早く寄越せ!」

不死川さんは塗り薬の入った箱を私から奪い取り、そして早くそれを外せと言わんばかりに顔の半分以上を侵食していた包帯に手をかけようとする。思わず顔を手で隠すと、その隙間を縫って彼の手が触れた。

「わ、ちょっとやめてください。皮膚が溶けてるんです。絶対惨いことになってますから!」
「んなもん慣れてるに決まってんだろォ」

べろりと剥がされた包帯には確かに血と体液がべっとり付いていて、私は思わず目を閉じた。空気に触れた傷がじくりと疼いて、少し痒いような感覚だった。

「優しくですよ? 優しく塗ってくださいよ?」
「できる限りな」
「……」

強ばっていた体は、外気に冷やされた塗り薬が傷に触れたとき、意外にも優しい手のせいで一気に緩んだ。そのまま丁寧に薬を塗り広げられて、時折直接手が傷に触れても痛みを感じない。閉じていた目を恐る恐る開けると、目の前の不死川さんの顔は思っていたよりも近かった。

「……あの、ちょっと塗りすぎじゃないですか? それ一週間分なんですけど」
「は? ケチりすぎだろ胡蝶のやつ……こんな量じゃ三日で無くなるぜ」
「だから塗りすぎなんですってば!」

赤黒いはずの傷口は、今や薬の乳白色に染まっているような気さえした。自分で鏡を見るのは怖いから確認はとてもできないのだが。

「……実は怪我したとき、痛みよりも先に、不死川さんに怒られるなあ、って思ったんですが、全くそんなことはありませんでしたね」
「俺がこんな傷だらけなのにそんな偉そうなこと言えねェだろ」

そりゃあそうですけど、継子の私でも不死川さんはほとんど怒鳴りまくってるイメージなので。そう私が言うと、不死川さんは強く薬を傷口へ塗りこんだ。





後日、不死川さんの見立て通り薬は三日でなくなり、しのぶさんに薬の適量について延々と語られたのはまた別の話である。



2018.12.8


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