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その手は分厚かった




山に住んでいた一家がある日を境にぱったりとこの町へ降りてこなくなった。その家の一番上の男の子だった炭治郎くんは私と同い年で、珍しい一人っ子だった私とよく遊んでくれた覚えがある。どうも不思議に思った町の人達が炭治郎くんのお家に行ってみたら、なんとまあ惨い状況だったことか。遺体は埋められているようだったが、お家の中は血だらけで。ただ、三郎爺さんによると、炭治郎くんだけはその日自分の家に泊めたらしい。だからきっと遺体を埋めたのは彼だ。そして、人を埋めたところは綺麗に土が盛り上がっていた様子だったらしいのだが、それの数が二つほど足りなかった。一つは炭治郎くん。もう一つは分からない。家族の誰かということは分かるが、掘り起こすなんてできるわけもない。ここの人達にとって炭は竈門さん一家のところで買うのが普通だったから、彼らが居なくなってからは隣町まで買いに行くのが日課になった。炭を買いに行くお母さんに着いていく度に炭治郎くんのことが頭に浮かぶ。決して裕福とは言えなかったし、お父さんも早くに亡くなったみたいだったけど、家族みんなが仲が良くて、本当に幸せな家庭そのものだったのに。どうしてこんな惨いことになってしまったのだろう。

***


それから少し時間が経って、みんなが炭を隣町へ買いに行くということに慣れてきた頃。私はお見合いの話が出てきて、少しばかり遠い場所に出かけることになった。お母さんが先に相手の方に会ってきた上でのことだったから、私一人でその方のお家へお邪魔することになり、私にとっては初めての汽車だった。それはとても大きくて、黒い車体がとても格好良い。田舎者の私だからもしお見合いが破談になったとしたら、これを使うのはおそらく最初で最後だ。しかしこの汽車は私が乗る一つ前のものらしく、随分と早く着いてしまった私はゆっくりとそれを見つめていた。

「……なまえ? なまえじゃないか! 久しぶり!」

後ろからふと掛けられた声はとても懐かしいものだった。振り返ったもののどこかで勘違いだと思っていたのに。

「……たん、じろう?」

丈夫そうな衣服に羽織。それに腰元に鞘を付けている。この格好は、三郎爺さんから聞いた 「鬼狩りさま」 というものにそっくりだった。何か、嫌な予感がした。

「綺麗な着物だな! 似合ってるよ!」
「お見合い、なの。……あの、ねえ炭治郎、分かってる? 私も町の人たちもとても心配してたのよ。あの日何があったの?」

あまりにもけろっとしている炭治郎に温度差を感じるくらい私は焦っていた。彼は困ったような笑みを浮かべると、そわそわと鬱陶しいくらいに動き回っていた私の両手をそっと包み込んだ。

「ごめんよ、心配かけて。でも俺も禰豆子も元気だ。他の人達によろしく言っといてくれ」
「炭治郎は、鬼狩りさまになったの?」

生き残ったもう一人は禰豆子ちゃんだったんだ。でもそんなことを思っている余裕は私にはなくて、半ば自棄糞になって問を投げかけると、炭治郎は目を丸くした。そして、うん、と一言だけ言葉を発した。

「ねえ、せめて手紙を送って頂戴よ」
「……そうだな、そうするよ。でも君が他の男と文通してるなんてお見合い相手の方は許さないんじゃないか?」
「……私は大丈夫よ、町の人に送って。破談になるかもしれないし」

私がそう言うと、炭治郎は途端に私の両手を包み込んでいた手を離して、私の肩をぐっと掴んだ。いつも刀を握っているからなのだろうか。結構痛い。

「そんなことを言ったら駄目だろう! 」
「ご、ごめんなさい」
「なまえは料理も上手いし、きっと良いお嫁さんになれるよ」

炭治郎は自慢するようにとんと自分の胸を拳で叩いた。

「……ふ、ふふ、確かに、炭治郎は私のお料理、よく食べてくれたものね」
「そうだ! 特になまえの卵焼きは美味かった!」

いつの間にか私は炭治郎への質問攻めをやめていて、そんなたわいない話をしていた。そのうちに車掌さんが準備を始めていて、炭治郎の後ろから金髪の男の子が近づいてくるのが見えた。

「炭治郎、早く煉獄さん探さないと! もう伊之助中に入っちゃったよ!」
「ああ、ごめん! なまえは次の汽車だったよな。じゃあ、また。鴉が町に手紙を送るから、君の新しい住所を教えてやってくれ」
「うん、分かった。じゃあね」

炭治郎は男の子の元へと走っていった。その後すぐに列車は出発し、窓を見ると炭治郎が手を振ってくれていて、私も控えめに振り返す。炭治郎の後ろで彼を恨めしそうにみていた金髪の子が、ひどく印象に残っていた。






2018.11.17




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