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前頭葉の外側


優里ちゃんと冨岡さんが共に任務をこなすということが決まったのは、とある日の柱合会議でのこと。当時はちょうど空気が淀み始めていたころで、このときから少しずつ隊士の態度が指摘され始めた。情けないことだけれど、それを解決するために話し合いをしたところ、最もまともな提案をしたのが冨岡さんだった。

「新人の隊士を育てる影の呼吸の隊士を、柱が指導してみてはどうだ」


いつも話し合いにはあまり発言しない彼が、珍しく意見を言った。そんな姿も可愛らしいと思った。


「はァ? なんで影なんだよ」
「影の呼吸には助太刀の技の型がある。新人の隊士を補佐しながら、鬼殺をさせればいい」

影と言えば、思い当たる人物がいた。一度藤の家で鉢合わせて、初めは遠慮ぎみで怯えていたけど、そのうち仲良くなって一緒にご飯を食べたっけ。女将さんが彼女の分のご飯を忘れてしまって、私の分を分けてあげたらとても喜んでくれたのを覚えている。素直に良い意見だと思った。

「私は良いと思うわ」
「とても良い案だと思うぞ!」
「若手が少しでも育つならまあいい。冨岡もたまには良い案を出すじゃないか」
「では、まず試しにやってみましょう。上手くいくかは分かりませんし、今継子がいない方も限られていますしね」

しのぶちゃんは少し席を外すと、隊士の名前が書いてある名簿を持ってきた。階級順にきっちりと並んでわかりやすい。白黒写真もついていて、今の時代にはとても珍しいものだった。

「一番上の階級は……少ないですね。ですが皆蝶屋敷に来たことはあります」
「……あ! 私この子知ってる! 甲だったんだぁ!」

知っている名前をふと見つけて、思わず声を出した。ちょうどさっき思い出していたところだ!

「知ってるのか?」
「はい、藤の家でお喋りをして……とっても良い子なんですよ」
「他には? 誰か知ってるやつはいるか?」
「天方さんですか……冨岡さんもこの前会ってましたよね」
「ああ、良い人選だと思う」


今日の冨岡さんはいつもより少し積極的だ。柱は単独かもしくは柱同士の任務が多いから、結局優里ちゃん以外の子のことを知っている人はしのぶちゃんだけだった。だからすぐに多数決に移ることになった。

「地味なやつだなあ。こいつのほうが階級は低いが華やかでいいじゃねえか」
「影の隊士は不意打ち技も多いので、なかなかそういうわけにはいかないんですよ」
「へえー、」

拗ねたような宇随さんもかわいい。

優里ちゃんは確かに普通の人に比べれば地味かもしれないけど、それ以上に努力家で、本当に良い子だ。髪の色を綺麗だと褒めてくれたときは嬉しかったなあ。

「他に何も無ければ天方さんに決定ですが……他に何かありますか?」
「俺は彼女に会ったことがないが、会った者皆が良いと言うなら異論はない! 賛成だ!」
「煉獄が言うなら俺も賛成だぜ」
「私も異論はない……」
「僕も……。すぐに忘れるので」

結局みんなは納得してくれた。私は彼女の努力が少し報われたような気がして、本人ではないが嬉しく思った。面識があったからというのもあるが、きっと彼女なら上手くやってくれると思うのだ。後にこのことを彼女に伝えたときはなぜか随分焦っていたけど、今ならなんとなく分かる。多分彼女は多数決のことを 「選ばれる隊士を自分にするかどうかの多数決」 じゃなくて 「自分か他の誰かか選ぶ多数決」 だと思ったみたいだった。似ているようで全く違う。会議が終わったら伝えてあげようと思ったけど、すぐに帰ってしまったから、手を振るしかできなかった。悪いことをしちゃったなあ。

話を戻し、その次の問題は彼女を指導する柱は誰かということだが、まず彼女の性格からして初対面だと緊張してしまうだろう。それなら自分と冨岡さんと、しのぶちゃんの三人に絞られるだろう。でもしのぶちゃんは継子のカナヲちゃんがいるから、実質二人だ。冨岡さんが良いなら私が立候補したいところだが……

「指導するなら多少面識のある人が良いでしょう。私はカナヲがいますから、冨岡さんか甘露寺さんですね。甘露寺さんは仲が良いみたいですし、どうですか?」
「あ、ええとね、あの……彼女、よく人に忘れられちゃうみたいでね、私もそんなにしっかり者じゃないし……今回は冨岡さんが良いと思うわ」

どういうことですか? としのぶちゃんが不思議そうに首をかしげる。その様子も可愛いなあと思いながら、私はあのときの思い出を辿った。

「自分は存在感がないってよく言ってたの。鬼も気づかないって」

実は任務の報告のために彼女が一度だけ柱合会議に出席したことが分かって、それが一番の証拠となったのは後の話だ。快諾してくれた冨岡さんを伊黒さんが睨んでいたけど、私が話せば納得してくれたみたいだった。

「言い出したのも冨岡だしな」
「うむ!」
「では、これで決定ですね」
「ああ」

冨岡さんと優里ちゃん。どことなく雰囲気が似ているから、まるで師範と継子だ。そう思ったけど、それよりも似合いそうな言葉を見つけて、思わずそれを口に出したくなった。

「冨岡さんと優里ちゃんが並んでいるのを想像したら、なんだか恋人同士みたいだわ」

そう言うと、他の柱の人達はみんな吹き出したり呆れたり、よく分かっていない人だったり。少し不味かったかなと冨岡さんを見やると、彼は一人だけ目を丸くして唖然としていた。




2018.12.19




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