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「#幼馴染」のBL小説を読む
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あまりにも平和すぎる


その帰り道、冨岡さんに指摘されたのは言わずもがな私の怯えようだった。だってしょうがないじゃん……。



「会議の度にそんなに怯えていてはきりがない。誰もお前を取って喰おうなんて思ってない」
「それは分かってますけど……」


その言い回しはちょっと鬼っぽい。ってそうではなくて。正直あれを怖くないと思えるのは柱の方だけだと思う。だって見た目完全にヤバい人じゃないか。

「多分、冨岡さん達意外は悲鳴嶼さんと不死川さんについては百人中百人が怖がると思います」
「そうか」
「……」
「……」


またなんか変な雰囲気にしてしまった。いや、冨岡さんがしたのか?


彼の 「そうか」 はどんな感情を持って言っているのか本当に分かりにくい。一言彼がこう言えば一瞬で話が終わってしまうので、私にはどうにも出来ない。他の話題を振ろうにももし呆れただとか、悪い意味での 「そうか」 だった場合、割と真剣な説教が待っている可能性もある。私にはそんな賭けはとてもじゃないができなかった。

「おにいちゃん、」
「……」

後ろから女の子の声が聞こえる。兄妹でおつかいでもしてるのかな、こっちと違って微笑ましい。


「半々羽織のおにいちゃん!」
「!」


思わず冨岡さんが振り返った。確かに冨岡さんみたいな特徴的な羽織を着ている人はどこにもいなかったから。私も振り返ってみると、そこには小さな女の子。

「おかあさんがどこにもいないの、どうしよう」


ぐずぐずと泣いている女の子はどうみても4つか5つくらいだ。無意識に冨岡さんと目を見合わせる。

「え、ど、どうします? 今は任務もないですけど」

「……どこではぐれたんだ」


そこは探すんだ……いや、前から意外と優しいことは分かっていたし、今はやることもないから当然と言えば当然なのかもしれないけど。

「おかあさんがお野菜を買いに行ってね、駄菓子屋さんを見てていいよって言われたんだけどね、場所が分からなくて迷っちゃったの。3時には迎えに来るって言ってたのに……」

そばにあった時計を見るともう三十分も経っている。親が心配しているに違いない。

「ではまず八百屋さんと駄菓子屋さんですかね」
「二手に別れるか」
「!、いやだ!」

いきなりの拒否に私は驚いてしまって、貴方はどちらかについて行けばいいんだよと慰めても、女の子は納得出来ないようだ。

「だめだめ! ……おねえちゃん達も迷子になったらどうするの!?」
「いや、私達は」
「わたしの二の舞にさせたくないの!!」

女の子は瞳に涙を貯めて上目遣いでこちらを見てくる。……こういうのをあざといと言うんだろうな。そう分かっていても愛らしく思えてしまうのは子供に甘い証拠か。それにしても、二の舞に、なんて難しい言葉どこで教わったのだろう。最近の子供は賢いなあ。

「うーん、そこまで言うなら、三人で探しましょうか」
「ああ」
「やったあっ!」


私達は迷子とは思えないほど楽しそうにお喋りする彼女に違和感は覚えたものの、気にすることはなかった。


それから、まず近くにあった八百屋さんに行った。店長のおばさんに聞いてみたらもう出ていったということなので、当然ながら駄菓子屋さんに行くことになったのだ。

問題はその途中。いきなり女の子が急ごうと焦り始めたので、手を引っ張られて猫背になりながら、冨岡さんがどうしたと尋ねてみても返事はない。

そのときだ、後ろの方から女性の怒鳴り声が聞こえたのは。女の子の動きはぴたりと止まって、すでに涙が流れかけている目にぎょっとした。

「あんた! どこ行ってたんだい!」
「お、お母さん……」

怒っている口調とは裏腹にとても焦っている様子の女性と、今まで迷子とは思えない言動の彼女。私は薄々事情を察してしまったのだが、冨岡さんは気づいていない様子だった。


「駄菓子屋に行く途中で迷ったと」
「はあ!? あんた、一緒に買い物行くときはいつも一人で勝手に行ってるじゃない! まさか……」


母親は私達をちらりと人目見ると、またやったのね、と低い声で脅しつけるように女の子を指さした。余程何度も犯している悪事だったからなのか母親は説教を続ける。女の子も負けるもんかと言うように反論を重ね続けた。
なんでこんなことをするんだい、と母親が問いかけたとき、女の子は衝撃的なことを口にした。



「……だってだってだって! かっこいいおにいちゃんとかわいいおねえちゃんとお散歩したかったんだもん!」



喜べば良いのか腹を立てれば良いのか。冨岡さんはやっと合点がいったようで、言い争いを再開する親子の喧嘩を止めた。


「俺達は良いが、親にいらぬ心配をかけるんじゃない」


彼女の言う 「かっこいいおにいちゃん」 に注意をされたのが余程堪えたのか、女の子は滝のように涙を流し始めた。母親はやっと収まったとばかりに溜息をついた。


「本当にすみませんね、この子は男女構わず本当に面食いでね、褒められたと思って許してやってくれないか。ほら、さっさと謝るんだよ!」
「え゛ーん!! ごめんなさい!!」


女の子は母親と手を繋ぎながら (拘束されながら?) 私達に手を振って帰って行った。




「……色々とすごい子でしたね」
「そうだな」



柱並に強烈な人は案外近くにいるのかもしれない、そう思えた午後四時。




2018.10.12



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