私はこの境遇について十分説明して貰えたと思っていた。思っていたが、どうやらそれは間違いだったようだ。それをあの冨岡さんと過ごすようになってから約半年も経ってから知ることになるとは。
「……柱合会議までついて行かないと駄目なんですか?」
「出席して現状報告をしてもらうためだ。お前は期待されてるんだ、胸を張れ」
そんな棒読みで言われてもなあ……。まず他の柱の方と会うのが怖いのだ。治療をよく受けている胡蝶さんや、気さくに話しかけてくれる甘露寺さんとか煉獄さん(迫力はすごいが)はともかく、悲鳴嶼さんや不死川さんに至っては色々ともう怖すぎるというかとにかくあの辺の人達に睨まれでもすれば私は蛇に睨まれた蛙のように失神してしまうかもしれない。蛇といえば伊黒さんもあの絞め殺されそうなそれでもってざくざく心を切り裂いてくるような毒舌が、ああもうそこらへんの雑草になりたい。
自分で歩いてはいたけど、気持ち的には冨岡さんに引きずられるようにして蔵屋敷に行くと、二人一緒に大きな部屋へ通された。そこが柱合会議をする部屋のようで、もうすでに全ての柱の人達が集まっていた。
私が部屋に入ると、胡蝶さんがそれに気付く素振りを見せた。そういえば最近は怪我をしていないから全く彼女とは会っていなかったなあ。
「あら、優里さん、お久しぶりですね。冨岡さんとは上手くやっていますか? 彼は口下手ですから」
「胡蝶さん! お久しぶりです。冨岡さんにはいつも丁寧にご指導して頂いています」
「緊張するでしょうけど、何もしていないのに怒られるなんてことはありませんから、落ち着いてくださいね」
「は、はい、頑張ります……」
そういった胡蝶さんの言葉はなんだったのか。多分彼女の基準ではこれが普通なのだろう。周りからの圧力に下の畳しか見ることが出来ない。確かに怒られてはいないけど、それ以上の好奇の視線が私を突き刺す。もう首が痛いからその整った怖い顔で私を見ないでほしい。注目され慣れてないから冷や汗がだらだらと流れ落ちてきっと気持ち悪く見えてるから。冨岡さんは私の方を見ようともしてくれないし、少しは助けてくれたっていいじゃないか。
「(威圧感でしにそう……)」
「あ、優里ちゃん!」
そんなとき私に小走りで向かってくる人がいた。甘露寺さんだ。とん、と軽くぶつかると、ぎゅっと私を肩を持って揺さぶった。
「久しぶりよねぇ優里ちゃん! 前の会議でね影の剣士の育成について話し合いをしたんだけど、優里ちゃんが候補に上がってたから“絶対この子!” って私が推薦したのよ! あとねあとね、私の他にもあなたを推薦してた人、沢山いたのよ! 多数決で決まったんだから!」
「は、はい、え? 」
桜餅の匂いがする……なんて余所見をしていた私への爆弾発言。甘露寺さんが私を推薦してくれた? 他にもいる? 聞きたいことは沢山あるけど、それよりも混乱していて頭が追いつかない。
するといきなり背中に何かがぶつかった。振り返るとその姿にひゅっと喉が鳴る。
「いてっ」
「す、すみません、宇随さん」
6尺以上ありそうな身長に思わずたじろいだ。相変わらず派手な装飾品に目がチカチカする。私とは正反対だ。
「こいつが前の会議で言ってたやつかぁ? 随分地味だな」
「影の剣士は呼吸の特徴上目立たずに行動することが必要だからな!」
「れ、煉獄さん……」
ふわりと派手な髪の色が障子から入る控えめな日光に照らされて太陽のように輝く。明るい色の目も中で炎が渦巻いているようだ。
「そういえば宇随は他よりいくらか派手目な影の剣士を推薦していたんだったな!」
「誰にも会ったことねーし会ったとしても覚えてないしな。見た目で決めるしかないだろ」
私は宇随さんに忘れられていたということに気づくより先に、この会話を聞いた瞬間、私は私を一番不安にさせる事実に気がついてしまった。
多数決ということは、私ではない別の人を推している人もいるかもしれないということに。
自分を気に食わない人がいるかも、ということに一気に頭の温度が下がった。胡蝶さん私やっぱりだめかもしれない。
そのとき、高くて幼い声が部屋中に響いた。
「御館様のお成りです!」
「!!」
片方の膝を地面について顔を下げる。とん、と控えめな足音だけが聞こえた。体の角度を変えたせいでポタリと汗が畳に落ちる。
「おはよう、今日もみんなが揃ってくれて嬉しいよ」
この声を聞いたのも一回きりだったけど、これから会議の度に聞くことになるのか。ほわほわしていてとても不思議な声。
「まず、前回の会議で決まった優里と義勇のことについて報告をしてもらおうかな」
「はい」
立場上、上司である冨岡さんが報告をすることになっていた。それはほとんど一緒に行った任務のことだったけど、一つだけ違うことがあった。
「優里は筋もよく、覚えも良い。良い剣士になると思います」
は、初めて褒められた?
どくどくと早く鼓動する心臓がさらに波打つ。今まで助言くらいしかされたことがなかったのに。
「そうか、良かった。優里、大変だと思うけど、これからも頑張ってね」
「は、はい!」
私が御館様と交わした会話はたったこれだけ。てっきり私は報告が終わったら部屋の外に追い出されると思っていたのだが、なぜかそのまま柱達と御館様は話し合いを初め、聞いて良い内容なのかもよく分からず頭に疑問符を浮かべていた。
またさっきのあの幼い声で解散を命じられると、御館様は奥の部屋へと帰って行った。
ほっと一息ついて冨岡さんを探そうと辺りを見回していると、いきなり手首を誰かに掴まれた。
「ひぃっ」
「行くぞ」
な、なんだ冨岡さんか。
彼もこの部屋にいる人達と同じ柱のはずなのに、いつも共に過ごしているからか妙に安心するなあ。
半ば強制的に引っ張られながら、甘露寺さんがこちらへ手を振っていたのが見えた。振り返したけど、多分部屋からは襖からはみ出た私の指先しか見えていなかっただろうな。
……というか、皆いろいろお喋りをしているというのに冨岡さんだけ早々に帰るというのは……うん、まあそういうことなんだろう。
「……柱合会議までついて行かないと駄目なんですか?」
「出席して現状報告をしてもらうためだ。お前は期待されてるんだ、胸を張れ」
そんな棒読みで言われてもなあ……。まず他の柱の方と会うのが怖いのだ。治療をよく受けている胡蝶さんや、気さくに話しかけてくれる甘露寺さんとか煉獄さん(迫力はすごいが)はともかく、悲鳴嶼さんや不死川さんに至っては色々ともう怖すぎるというかとにかくあの辺の人達に睨まれでもすれば私は蛇に睨まれた蛙のように失神してしまうかもしれない。蛇といえば伊黒さんもあの絞め殺されそうなそれでもってざくざく心を切り裂いてくるような毒舌が、ああもうそこらへんの雑草になりたい。
自分で歩いてはいたけど、気持ち的には冨岡さんに引きずられるようにして蔵屋敷に行くと、二人一緒に大きな部屋へ通された。そこが柱合会議をする部屋のようで、もうすでに全ての柱の人達が集まっていた。
私が部屋に入ると、胡蝶さんがそれに気付く素振りを見せた。そういえば最近は怪我をしていないから全く彼女とは会っていなかったなあ。
「あら、優里さん、お久しぶりですね。冨岡さんとは上手くやっていますか? 彼は口下手ですから」
「胡蝶さん! お久しぶりです。冨岡さんにはいつも丁寧にご指導して頂いています」
「緊張するでしょうけど、何もしていないのに怒られるなんてことはありませんから、落ち着いてくださいね」
「は、はい、頑張ります……」
そういった胡蝶さんの言葉はなんだったのか。多分彼女の基準ではこれが普通なのだろう。周りからの圧力に下の畳しか見ることが出来ない。確かに怒られてはいないけど、それ以上の好奇の視線が私を突き刺す。もう首が痛いからその整った怖い顔で私を見ないでほしい。注目され慣れてないから冷や汗がだらだらと流れ落ちてきっと気持ち悪く見えてるから。冨岡さんは私の方を見ようともしてくれないし、少しは助けてくれたっていいじゃないか。
「(威圧感でしにそう……)」
「あ、優里ちゃん!」
そんなとき私に小走りで向かってくる人がいた。甘露寺さんだ。とん、と軽くぶつかると、ぎゅっと私を肩を持って揺さぶった。
「久しぶりよねぇ優里ちゃん! 前の会議でね影の剣士の育成について話し合いをしたんだけど、優里ちゃんが候補に上がってたから“絶対この子!” って私が推薦したのよ! あとねあとね、私の他にもあなたを推薦してた人、沢山いたのよ! 多数決で決まったんだから!」
「は、はい、え? 」
桜餅の匂いがする……なんて余所見をしていた私への爆弾発言。甘露寺さんが私を推薦してくれた? 他にもいる? 聞きたいことは沢山あるけど、それよりも混乱していて頭が追いつかない。
するといきなり背中に何かがぶつかった。振り返るとその姿にひゅっと喉が鳴る。
「いてっ」
「す、すみません、宇随さん」
6尺以上ありそうな身長に思わずたじろいだ。相変わらず派手な装飾品に目がチカチカする。私とは正反対だ。
「こいつが前の会議で言ってたやつかぁ? 随分地味だな」
「影の剣士は呼吸の特徴上目立たずに行動することが必要だからな!」
「れ、煉獄さん……」
ふわりと派手な髪の色が障子から入る控えめな日光に照らされて太陽のように輝く。明るい色の目も中で炎が渦巻いているようだ。
「そういえば宇随は他よりいくらか派手目な影の剣士を推薦していたんだったな!」
「誰にも会ったことねーし会ったとしても覚えてないしな。見た目で決めるしかないだろ」
私は宇随さんに忘れられていたということに気づくより先に、この会話を聞いた瞬間、私は私を一番不安にさせる事実に気がついてしまった。
多数決ということは、私ではない別の人を推している人もいるかもしれないということに。
自分を気に食わない人がいるかも、ということに一気に頭の温度が下がった。胡蝶さん私やっぱりだめかもしれない。
そのとき、高くて幼い声が部屋中に響いた。
「御館様のお成りです!」
「!!」
片方の膝を地面について顔を下げる。とん、と控えめな足音だけが聞こえた。体の角度を変えたせいでポタリと汗が畳に落ちる。
「おはよう、今日もみんなが揃ってくれて嬉しいよ」
この声を聞いたのも一回きりだったけど、これから会議の度に聞くことになるのか。ほわほわしていてとても不思議な声。
「まず、前回の会議で決まった優里と義勇のことについて報告をしてもらおうかな」
「はい」
立場上、上司である冨岡さんが報告をすることになっていた。それはほとんど一緒に行った任務のことだったけど、一つだけ違うことがあった。
「優里は筋もよく、覚えも良い。良い剣士になると思います」
は、初めて褒められた?
どくどくと早く鼓動する心臓がさらに波打つ。今まで助言くらいしかされたことがなかったのに。
「そうか、良かった。優里、大変だと思うけど、これからも頑張ってね」
「は、はい!」
私が御館様と交わした会話はたったこれだけ。てっきり私は報告が終わったら部屋の外に追い出されると思っていたのだが、なぜかそのまま柱達と御館様は話し合いを初め、聞いて良い内容なのかもよく分からず頭に疑問符を浮かべていた。
またさっきのあの幼い声で解散を命じられると、御館様は奥の部屋へと帰って行った。
ほっと一息ついて冨岡さんを探そうと辺りを見回していると、いきなり手首を誰かに掴まれた。
「ひぃっ」
「行くぞ」
な、なんだ冨岡さんか。
彼もこの部屋にいる人達と同じ柱のはずなのに、いつも共に過ごしているからか妙に安心するなあ。
半ば強制的に引っ張られながら、甘露寺さんがこちらへ手を振っていたのが見えた。振り返したけど、多分部屋からは襖からはみ出た私の指先しか見えていなかっただろうな。
……というか、皆いろいろお喋りをしているというのに冨岡さんだけ早々に帰るというのは……うん、まあそういうことなんだろう。
2018.10.8