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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






妹と金髪と猪と先輩・前


本編とは別軸と考えて頂いても大丈夫ですが、強いていえば1.5話くらいのお話です。原作で考えると時間軸がめちゃくちゃです。ご注意ください。




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「いやだいやだいやだあああ!」

じたばたと赤ん坊のように駄々を捏ねまくる善逸にまたかと溜息をついた。今度は善逸を伊之助が引きずり始めて、状況が悪化してしまったことに先が思いやられる。

「伊之助、人を引きずるな! 善逸もいつまでも恥を晒すんじゃない、先輩と合同任務なんだから」
「お前わかんないかなあ、先輩っていうのがいっちばん嫌なんだよ! どうせ俺なんかダメ出しされて終わりさ」
「いや、それはないよ。鴉によると結構優しい人みたいだし。だから禰豆子だって連れて行けるんだ」

禰豆子は鬼だけど人は襲わない、と言っても、本当に信じてくれる人なんていないかもしれないのだ。だって彼らはほとんどが身内を鬼に殺されてしまったりした人だから、なかなか区別もつけられないだろう。けれども鴉が言うなら、と信じたからこそ禰豆子は今自分の背中に背負われているのだ。

「あの神社が待ち合わせ場所なんだ。まだ来てないみたいだし、待っておこう」
「おい紋次郎、あの犬はなんだ!」
「あれは狛犬だよ。大事なものなんだから、壊しちゃ駄目だぞ」

つんつんと興味津々に狛犬をつつく伊之助は自分の弟妹を彷彿とさせた。善逸はさっきからびくびくしっぱなしだし、本当に自分と同じくらいの歳なのか疑い深いところはあるが、やるときはやってくれるし、頼りになるのだ。

「来ないなあ」

とうとう伊之助が先輩が来たら懲らしめてやろうだとか戦ってもらおうだとか言い始めていたとき、背後から薄い人の匂いがしたのに気がついた。

「あ、あの……ごめんね、貴方が竈門くんと、嘴平くんと、我妻くん?」

善逸と伊之助すらも驚いてびくりと体を跳ねさせた。さっきまで木の匂いしかしなかったのに。

「本当にごめんなさい。私、ずっと神社の裏で待ってたみたいなの。天方優里だよ、よろしくね」

さっきまで冷や汗を垂らしていた善逸は急に満面の笑みを浮かべ始めて、伊之助はさっきまでの苛々している様子が嘘かのように目をきらきらと輝かせている。

「俺は善逸です。よろしくお願いしますね優里さん!」
「お前今のどうやったんだ!?」
「え、ええと……?」

善逸に離さないとでも言うように強く手を握られて、伊之助に質問攻めにされている優里さんは、その温和そうな風貌も相まってまるで姉のように見えた。

「善逸、伊之助、優里さんが困ってるだろう。早く離れるんだ」

無理矢理二人を引き剥がすと、伊之助は途端に諦めてくれたのだが、善逸にだけは恨めしそうな視線を浴びせられた。ほっと安心したように息を吐いた優里さんは、じゃあ本題に入るねと人差し指を立てた。

「私の鴉によると、今回は私は貴方達の手助けをするだけみたいなの。もちろん命の危機であれば助けるけど、あまり人は食ってない鬼みたいだから、三人もいればきっと大丈夫だよ」


なるほど。となると、今回の任務は結構特殊なんだな。上手く言えないけど、最終戦別に近い感じがする。俺がなんとも言えない表情をしているのに優里さんは気づいたみたいで、誤解を解くように詳しい説明をしてくれた。なんでも、こういう新人の隊士を見守るという任務は今階級が丁以上の影の呼吸の隊士全員が受けているらしい。優里さんもその理由ははっきりとは知らないみたいだが、彼女によると影の呼吸は「助太刀」 専用の型があるらしいから、それが関係しているのかもしれない、ということだった。


この話を言い終えた優里さんはふう、と一息吐くときりりと引き締まった表情で俺の方を見やった。


「少し気になってたんだけど……竈門くんの背負っている箱の中にいるのは鬼、だよね。どうして鬼を連れているの?」
「!」

優里さんの匂いが少しだけツンとしたものに変わって、僅かに目付きが鋭くなったのはきっと気の所為ではない。さっきまで意気揚々としていた二人もぴしりと固まる。俺は彼女が納得してくれることを信じて腹を括った。

「禰豆子は俺の妹で、鬼です。でも、人は一度も喰っていませんし、これからも絶対に喰いません」

優里さんが真っ直ぐ俺の目を見る。途端に匂いがさっきの薄くて柔らかいものに変わった。

「きっと何か事情があるんだよね。分かったわ」

箱の中にいる禰豆子がかりかりと音を立てる。自然と優里さんの視線がそちらに向いた。

「ありがとうって言ってるんですよ」

俺がそう言うと、優里さんは優しい笑みを滲ませた。





2018.11.12




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