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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






そんな勇気などない


私が冨岡さんと生活するようになってから早半年と数ヶ月。そして柱合会議に出席した日から半年。これがどういうことか分かるだろうか。
そう、会議は半年に一度、つまり今から私にとって二度目の柱合会議になるのだ。ただ、二度目ということもありまだ胃の痛みは前回よりはずっと軽いものだった。

「どうですか? ちゃんとつけられてますか?」
「ああ」

さらりとした磨り硝子の感触だけが指に伝わる。こんなものを付けたのは両親に買ってもらってつけたとき以来だ。あれは何かの拍子に壊れてしまって一日中泣いていたっけ。
冨岡さんの言う通り、これのせいで鬼に気づかれるとかそんなことは全くなくて、なんの支障もなく鬼殺を済ませられた。わりと気に入っていて、意外かもしれないけどきっかけをくれた宇髄さんには結構感謝している。この簪は彼に言わせれば地味かもしれないが、私にとっては充分なくらいだし、多分文句は言われないだろう。


「ふうん、まあ、前よりはマシだな」

産屋敷の前で鉢合わせた宇髄さんから言われたこの評定結果にほっと一安心したところで、今にも飛びついてくるような明るい声に私は背後に体を向き直した。そこには甘露寺さんと伊黒さんが立っていた。

「随分とお気楽だな。これだから……」
「こんにちは優里ちゃん! その簪、とっても可愛いわ! 冨岡さんに貰ったの?」
「こんにちは甘露寺さん、伊黒さん。そうなんです、冨岡さんが選んでくださったもので」
「ええ!? あらあら、そうだったの! 」
「意外と趣味が良いじゃねえか」

気まずそうに黙り込む伊黒さんとにやにやと口角を上げていく二人に私は苦笑い浮かべた。











「では、いただきます!」



どうしてこうなったのか、と本気で私は聞きたい。何故御館様と柱の皆さんと、こんな階級が上と言うだけの私が一緒に食事をすることになったのか。これはなんだろう、次の柱として私を考えてくれていると思っていいのだろうか。

「緊張しなくて大丈夫ですよ」
「は、はい、」

私の席はちょうど胡蝶さんと冨岡さんに挟まれている。そして向かいの席は煉獄さん。目力が強すぎて直視できない。この人に至っては既にあまね様におかわりを頼んでいたりする。

「冨岡とは上手くやっているのか!?」
「は、はい、いつも丁寧に指導して頂いています」
「そうなのか! 良かったなあ冨岡!」
「……」

冨岡さんはこくりと控えめに頷いた。煉獄さんはその様子を見てにっこり笑うと、彼の方へ向き直った。

「そう言えば今日御館様は体調が宜しくないみたいなのだが、冨岡、お前に話があるそうだ!」
「……分かった」

相変わらず冨岡さんは無表情で、軽く私を見やると、御館様のいる部屋へと向かっていった。



「ねえねえ優里ちゃん! 冨岡さんとはどう? 前も思ったんだけど私、貴方達を見ていると恋人同士にしか見えないのよね」
「……ええ!? いや、そんな……」

同じ屋敷で暮らしているとはいえそこは馬鹿みたいに広いし、それに冨岡さんは性別がないんじゃないかってくらい、下心があるなんて感じたことも無い。ましてや恋愛結婚なんて増えてきてはいるようだがまだまだ特殊なケースだ。

「さっき御館様に呼び出されたのは優里ちゃんとお見合いしないかって話だったりしてね」
「……今更そんなことしますかね?」

もうお互いのことは充分知っているんだし、そんなことをする必要な無いような気もするが。

「まあまあ、そんなことは帰ってきてから聞いたらいいじゃないですか」
「ふふ、そうね。じゃあ優里ちゃん、今度会ったときはしのぶちゃんと私に教えてね」
「は、はい」

くすくすと笑う二人に、私は少し不思議に思ったのだった。



2018.12.30


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