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ちゃんと艶消しをして


「お前はこういうものは苦手なのか?」


何故か身構えていた体から力が抜けた。私は彼がこういう着飾る類のものには否定的だと思い込んでいたのだ。でもこんな優しそうな声色なら、そんな考えとはまるっきり逆に違いなかったのだ。

「お前も年頃だから、この類のものに興味を持つものだと思っていた」

さも当然のような顔でそんなことも言われ、私は今まで冨岡さんのことをわかったような気になっていただけで、そんなことはなかったのだと知った。冨岡さんは鬼殺はもちろん、正直それ以外に興味があるのは鮭大根くらいだと思っていたのだ。

「……その、目立つものはあまり好きではないのです。興味がないわけではないのですが……。それに、鬼殺そっちのけであまり着飾るのは好ましくないかと思いまして」
「じゃあ俺はどうなるんだよ」
「宇髄さんは良いのです。柱ですもの」

それに、と私は続ける。

「両親の介護のためのお金が要りますので、自由に使えるのはほとんどありませんしね」


最後にしんとしてしまった空間を誤魔化すようににこりと笑った。宇髄さんは終始つまらないというような顔でこちらを見ていた。そして、当たり前だとでも言うように、少なくとも私にとってはとんでもない言葉を発したのだ。

「んなの、冨岡に出させれば良いじゃねえか」
「……ええ!? 」
「うんうん、それが良い! 冨岡! お前が出せ! 少なくとも次の柱合会議までにはな! これは俺のためでもある! 分かったか!」

雛鶴さんがちょっと、と彼を落ち着かせようとする前に、宇髄さんは彼女の腕を引っ張って砂埃が立つくらいの速さでこの店を去っていった。忘れるなよ! と最後に私達に念を押して。苦笑いをする雛鶴さんの表情しか私には見えなかった。






「ど、どうしましょう」

本当にどうしようもなくおろおろしながら冨岡さんの方を見やると、なんと彼は既に簪をあれこれ手に取って物色していた。その様子に一瞬私は固まってしまう。

「え、あの、なにをして……」
「……」
「……あの、冨岡さん?」

すっかり集中している彼は私の方を見向きもしない。

「これなんかどうだ」
「ええと、ですから冨岡さん、」
「磨り硝子だから光って目立たないし、蓮の飾りもお前に合っていると思うんだが」
「……!」

彼は選んだその簪を私の髪にかざす。彼のその涼しげな瞳が今までにないくらい近かったのに、そちらではなく、同時に見えた濁った白色が妙に目に留まった。
揺れるような飾りもなく、かと言って地味すぎるわけでもない。接着された少し大きめの蓮の飾りが簡素でありながら可憐な雰囲気を醸し出していた。決して派手とはいえないけれど、それは確実に私の外見に華を与えてくれるものなのだと。そう、感じてしまったのだ。そして同時に、溢れるように物欲が湧いてしまったのを感じた。


「……ほ、本当に、冨岡さんが、買ってくださるんですか」
「ああ」
「その、すごく素敵、なので、これでお願いできますか」

冨岡さんはかざしていたそれを私から離すと、会計のおばさんのところへ持っていった。そのお金のやり取りを見て、上司にものを買わせたということに悪いことをした気持ちになってしまった。

「あ、ありがとうございます。屋敷に帰ったら早速つけてみますね」


簪が入った紙袋を受け取る。

そのときの冨岡さんの顔は、本当に、本当に少しだけ、嬉しそうに見えた。いつもの彼を見ている人なら誰もが、さっきの申し訳なかった気持ちも吹き飛んでしまうほどの衝撃があるくらいに。


どうしてここまでしてくれるのだろう。

彼を見て、そんな疑問が私の中にぽつりと突如生まれた日だった。



管理人自身は簪について全く詳しくないので間違ってるところがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください……。
2018.11.8



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