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輝きは苦手だから


忘れていた。そう、そうだ。私は私の体質を忘れていた。怪我が治ったからって調子に乗りすぎだ。だってそうじゃなければこんな何度も経験したことに泣きそうにならないもの。

「……とみおかさあん」

彼とはぐれた。少し前の迷子(に見せかけた)女の子を思い出した。あの特徴的な羽織も、癖の強い黒髪もどこにも見当たらない。迷子になったのは随分久しぶりだったのだ。探せど探せど見つからない。最終手段は一人で目的地という名の彼の屋敷に行き合流することなのだが、私は彼の性格を完全には把握していないのだ。だから入れ違いになる可能性も十分ありえる。だがかなりの時間を使って探し回っているし、もうこの方法に頼るしかないのか。
そんな風に考えていたとき、誰かにとんと肩を叩かれたのを感じた。

「と、冨岡さん! 私もうずっ、と…………」
「おお、やっぱり影の奴か」
「……」


大きな背丈が作り出す影に私は見事にすっぽりと収まった。きらきら、と言うよりは、ぎらぎらとした派手な装飾品が太陽の光を反射して顔が判別できないくらい光る。それでも、これまた派手な化粧をしていることは判別できた。

「随分忍並に地味なやつがいると思ったら隊服を来てたからな。もしかしたらと思ったんだよ。冨岡の奴はいないのか?」
「……恥ずかしながら、はぐれてしまいまして」
「ほう、」

宇髄さんの目が頭の宝石と共にぎらりと光る。……これはきっと何か企んでいる顔だ。

「それは丁度良い! 俺はお前が気に入らなかったんだ!」

遠慮なく刺さった言葉がそのまま私の心臓を抉った気がした。私は彼が色々強引なことを知っていたから、気に入らない、ということはこれからきっと沢山しごかれるのだと思い込んでいた。しかしそれは全くの杞憂で、その後彼が発した言葉の意味は私が予想していたものと全く違うものだった。

「いつもいつも地味な格好で俺はもう我慢できねえ! 任務が無いときくらい何か着飾れ! いい所を知ってるからついて来い!」
「いや、あの、」
「問答無用! 雛鶴、運べ!」

雛鶴、と呼ばれた女の人はドロン、とどこからともなく出てきてあっという間に私を背負う。忍の人って本当にそんな感じで出てくるんだ、なんてことを思う暇はもちろんない。私の混乱すらも無視して、そのまま自分の気持ちだけがこの道のど真ん中に置いていかれた気がした。そんな特殊すぎる状況なのに、声をあげる人はおろか、不思議そうにこちらを見る人すら町の人々の中にはいなかったのだった。








自分とは絶対に釣り合わない上品な雰囲気が漂うこの空間に、私は早くも逃げ出したい。

「どう、これとか似合うんじゃないかしら」
「いや、あの……」

無造作にまとめた自分の髪の根元に雛鶴さんが選んだ簪が軽く添えられる。梅を催した飾りがしゃらしゃら揺れる音がした。

「元々が地味なのにさらに地味な簪つけても意味ねえよ」
「ふむ、そうですか……あ、これならどうですか」

選んでは選び直し、選んでは選び直して。これを八周ほどされたとき私はもう心がくたくたで立ちっぱなしの足が崩れ落ちそうだった。雛鶴さんが幸運にもそれに気づいてくださって、宇髄さんに言ってくれたのだが、彼は奥さんからも言葉にも応じてくれず、私は今頃冨岡さんはどうしているのだろうと現実逃避までしていた。
ここはさっきの町からそんなに離れていないはずだし、もしかしたら。そう思っていたとき、嬉しくもそのときがやって来たのだ。

「……優里。探したぞ」
「!、と、と、冨岡さん! 助けてください宇髄さんに捕まったんです!」
「あ゛?」

今となっては毎日聞いているその凛とした声が鼓膜を震わせる。早くこの場所から逃げ出したかった私は冨岡さんの後ろに回って肩を軽く掴んだ。彼は少し驚いたようにこちらを見てから、宇髄さんの方へ向き直る。

「いっつも地味な格好してるからよ、簪でも選んでやろうと思ってな」
「……」

嘘だ! そんな良心的な風ではなかったし、そもそもここへは無理矢理連れてこられたんだから!

やはり無表情なせいで迷子になった私に怒っているのか、それとも宇髄さんの相手が面倒臭いと思っているのか、もしかしたらそれほど何にも思っていないのかは私には分からなかった。


だから、まさか彼があんなことを言うなんて思ってもみなかったのだ。






2018.11.4



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