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爺ちゃんのお節介


チュンチュン、と慌てたようにチュン太郎が俺の周りを回り、その足に括り付けられた手紙を届けに来たのは、炭治郎と伊之助がそれぞれ単独任務に赴いてからが約三日のことだった。

「そんなに慌ててどうしたんだよ」

問いかけてもチュン太郎は炭治郎たちの鴉のように話せないから、ただ鳴くばかり。だがチュン太郎の音は微かに恐怖を放っていて、俺は少し冷や汗をかきながらその手紙を開いた。

「……えっ」

そこには力強い字で“帰って来い” とだけ書かれていただけだった。これは明らかになまえちゃんの字じゃない。そう思って隅々まで目を通していると、隅っこに小さく“桑島慈悟郎”と書かれてあるのを見つけた。やっぱり爺ちゃんだ。

「でもなんで?」
「チュンチュン!」
「てか帰っていいの!? やったすっごい嬉しい!!」

話を聞けと言わんばかりにチュン太郎は俺の頭をつついた。でも俺には痛くも痒くもなんともない。俺は早速隊服に着替え、しのぶさんに挨拶をして、早く帰りたい一心でその日のうちに蝶屋敷を出発したのだった。

***




「へへ、買っちゃった。なまえちゃん喜んでくれるかなあ」

腕の中の紙袋が歩くたびに揺れて小さく皺を刻む。その中身は椿油の入った小瓶。他にもたくさん買った。女の子たちがたくさん並んでいる中で男一人混じるのは変なものを見るような音をされて辛かったけど、(おばさん達は微笑ましそうな音をしていたが)でもなまえちゃんが喜んでくれるならこれくらいどうってことはないのである。俺はこの街で買ったもののひとつを懐に忍ばせた。楽しみでもう仕方がない。急ぎ足で歩いていけばいつの間にかあの懐かしいあの少し古びた俺の家はもうすぐそこだ。


「たっだいまー! 」

スパン、と扉が爽快な音を立てて開く。だがしかし、その音に反応する人間は誰一人居なかった。
ただ、何かが割れたような音が、台所から聞こえてくる以外は。当然驚いた俺は、すぐに台所の方へと駆けた。

「えっ、何!? 何が割れたの!? つか何で誰も返事してくれないの!?」
「……ぜ、善逸くん……!」

台所にはなまえちゃんがいた。あ、髪伸びてる。腕白っ。あとなんか、すごく可愛くなってる。感動の再会、のはずなのに、状況のせいでちっとも頭がそういう思考に働かない。なまえちゃんの足元には湯のみだった欠片が散乱している。所々赤い。……ん? 赤い?

「っ怪我!! してるじゃん!! なんでそんなぼさっとしてるの!」
「えっ」

そのときの俺の棚からすぐさま包帯を探し取り出す動作はきっと誰よりも早かったと思う。なまえちゃんの足の傷は思ったよりも深かった。見事に破片で切り裂かれていたなまえちゃんの足の甲に包帯を巻いて、強く抑えて止血をした。その様子を眺めるなまえちゃんの音は、どこか上の空な音がする。一体どうしたんだろう。
あと、なんか二階から誰かがものすごい勢いで階段を降りてくる音がする。

「善逸! 帰って来たのか!」
「爺ちゃんが帰ってこいって言ったんでしょ!! ただいま!!」

俺がなまえちゃんの足の傷口を抑えながら言うと、爺ちゃんはにかっと笑った。その後なまえちゃんは何かはっとしたように瞬きをすると、どこか気まずそうにおかえり、と力無く笑った。




2019.8.15