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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

やわらかい にさわりたい


※アホっぽい R15くらい






「お願いします! おっぱいを触らせてください!」

「……え?」

深く深くお辞儀をする。もうそりゃ土下座かってくらいの。でも本当に土下座するのはだめ、下から着物の中を覗き込んでるって思われそうだから。でも俺が彼女に今お願いしたことも、大概それと同じくらい気色悪いことなんだろうけども。


***




いきなりだけど、俺はなまえちゃんと恋人だった期間がない。急に決まった結婚だったのだからそりゃ当たり前っちゃ当たり前なのだが、それのせいでちゃんと手順を踏むことなくこんな関係になった俺達は、きっとほかの夫婦と違うことが沢山ある。一緒に寝る。これは出来てる。俺が家にいる日だけだけど。抱擁も出来る。口吸い。これはまたいつか話すけど、結論を言うと物凄く時間はかかったが出来た。一緒にお風呂に入る。出来てない。際どい部位に触れる。出来てない。それ以上? 出来てる訳ない。ということで夫婦としてこれはどうなのかとさすがに焦った俺は、そういう欲を抑えきれなかったこともあり、恥を忍んでなまえちゃんにこんなお願いをしてしまったのである。いや違う、男たるもの、勢いが大事なのだ。

「気持ち悪いって思うだろうけど、その、それ目当てとかじゃないし、ただ、なまえちゃんにもっと、触りたいというか、その……あー! なんて言えばいいのかわかんないけど……!」

ちらりと見えたなまえちゃんの顔はりんごのように真っ赤で、心做しか胸を隠すように手を上半身に添えている。ああ、やっぱり嫌だよね。そう諦めかけたときだった。

「……い、いいよ」
「……へ?」
「その、善逸くんがさわりたいなら、いい、よ」

……本当に? そう言ったらなまえちゃんはうん、と恥ずかしそうに頷いた。俺は正直言って信じられなくて、思わずもじもじしているなまえちゃんの胸の辺りに視線が注いでしまう。顔が熱い。これは夢かな。否、これは俺自身がきっかけを作った夢のような現実なのである。






「ど、どうしよう? どうする? 前から?」
「……顔、見えるの恥ずかしいから、後ろからがいいかな……」
「あっ、うん! わかった!」

どくんどくん。なまえちゃんの心臓の音がすごく鮮明に聞こえる。やっぱり恥ずかしいよね。でも……でも!


「……し、失礼します……」

やっぱり触りたいんだ!
俺はなまえちゃんの背後に周り、両脇の下に腕を通す。これ、なんだか羽交い締めするときの体勢にちょっと似てる。でも俺の手がそれをするときみたいに後頭部に行くことはない。彼女の胸部に向かって手を伸ばす。そしてできるだけ優しくゆっくり、そっとなまえちゃんのそこへと包み込むように触れた。
びく、となまえちゃんの体が驚いたように跳ねる。でも意外にも一度触れてしまえば大丈夫なのか、彼女の心臓の音はだんだんと落ち着いていった。これならまだいけるかも。そう思った俺は、弱い力でそのやわやわとした胸を優しく揉んでみた。

「……!」

やわらかい。すごく。そして今までは厚い着物のせいでなかなか分からなかったけど、思っていたよりも大きい、気がする。

「……あ、あの、ぜんいつくん」
「えっ!? な、何? もしかして嫌だった!?」
「あ、ち、違うの、そうじゃなくて……ちょっとだけなら、もっと強めにさわってくれても、大丈夫だと、おもう……」


俺は固まった。まさかなまえちゃんの方からそんなことを言ってくれるなんて。顔は見えないけれど、後ろから見える彼女の耳は真っ赤に染まっている。静まりかけていた心臓の音もまた大きくなっていて、きっと死ぬほど恥ずかしいはずなのに。でも悲しいかな、そんななまえちゃんの様子に俺はさらに興奮してきてしまう。もっと強めに触っても大丈夫。そんなことを言われてしまったら俺はその言葉に甘えるほかなかった。

「……ひっ」

ぎゅ、と先程よりも遠慮なく胸を揉み込む。なまえちゃんが小さく声を上げたのも全然気にかけられない。

「……、」

……ああでも、ちょっと布が分厚いな。これがなかったらもっと柔らかいんだろうな。

「……、」
「……!? ぜ、ぜんいつくん、」
「ごめん、ちょっとだけ、肌襦袢の上からでいいから……!」

俺が雑になまえちゃんの着物の帯を解くと、きつく締められていた彼女の胸元に隙間ができる。見計らったようにそこに手を差し込むと、肌襦袢のさらさらとした布の感覚が手のひらを刺激した。
なまえちゃんから焦った音が聞こえて、俺を止めようと手首を掴む。でも彼女の力なんていつも刀を握っている俺にとっては全く大したことはなくて、手首を掴まれたまま膨らみに手を添えると、着物の上からのときとは違ってそこはふにゃりと簡単に形を変えた。びくっと彼女が体を震わせると、その後すぐに俺の手首を掴む力は弱まった。

「ほんとにちょっとだけだから。なまえちゃん、おねがい」
「……うう、う」

それは随分くぐもった声だった。泣きそうな声だ、可哀想だな。でも同時に可愛らしい、とも思う。拒絶の音がしないからって遠慮なくそこを掴むように揉んでしまう俺は最低な男だな、とも。

「すっごい柔らかい、気持ちいい、ずっと触ってたい……」
「ちょ、ちょっとだけって、言ってたよ……!」
「……なまえちゃん、俺に触られるの嫌?」
「い、いやじゃないけど……」

それなら、と俺が思ったそのとき、不意になまえちゃんが俺の片方の手首を掴んだ。でもそこにはほとんど力が加わっていなかった。なのに彼女の心臓の音はどくんどくんと激しく鼓動している。
……緊張してる? でも何に? 気になった俺はこのときだけはなまえちゃんに身を任せることにした。

「……へっ」

なまえちゃんは開いていたもう片方の手で震えながら肌襦袢と地肌の間に隙間を作った。お餅みたいに白くて柔らかそうな肌が見える。そこに俺の手を……え? え? 直接?

「アッ、えっ!? なまえちゃん、そこまでしなくても……!」

俺も口ではそう言ったけど、その震える手を止めはしなかった。ぴとり、と俺の手のひらと膨らみが密着する。俺の手でやっと収まるくらいの。俺は今、なまえちゃんの胸に、直接触っている。吸い付くような肌。少しだけ指を曲げると、ふに、とした柔らかな感触と普通に触れているだけでも伝わる温かい体温がその証拠だった。その事実を自覚した瞬間、俺は顔がぼっと熱くなる。恐る恐る後ろからなまえちゃんの顔を覗き込むと、その大きな目はぎゅっと閉じられていて、目尻に涙が浮かんでいた。頬とまぶたの赤みが色っぽくて、その表情はひどく妖艶で。そして一言、なまえちゃんは震える声で言った。

「……こ、これでかんべん、してください……」

「……」


今の俺には何も後悔はなかった。なまえちゃんの体に触れた。可愛い姿が見られた。彼女には元々のお願い以上のことをしてもらった。これ以上求めるものは何も、ない。


「……厠にいってきます!!!」


俺は駆け抜けるかのような速さで彼女の着物の乱れを正し、全速力で厠へと駆ける。後ろの方でぺたりと彼女が床に崩れ落ちた音が、やけに鮮明に聞こえた。





2019.10.27